F・ポール・ウィルスン『始末屋ジャック 凶悪の交錯』

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 裏社会に紛れ、人々の表には出せないトラブルを静かに解決する男、それが"始末屋"ジャックだ。人智を越えた<同袍>と<異界>の争いに巻き込まれた今も、彼は変わらず始末屋の仕事を続けている。今回の依頼は2つ。一つは、躍進めざましい世界規模の新興宗教に入信した末に行方不明となった息子を捜して欲しい、との老母からの依頼。もう一つは、弱みにつけ込んで金をゆする謎の脅迫者からの脅迫を止めて欲しい、との修道女からの依頼。教団への潜入と、脅迫者の手にある弱みの種の消去との、デリケートな二つの依頼を、同時に着実に進めていくジャック。だが、成功しかけたはずの依頼は思わぬ展開を見せ、かつてない苦しい戦いを強いられるジャック。さらに、彼の行く手に、またしても<異界>の陰謀が立ちふさがる......!

 一時は刊行存続の危機に瀕した<始末屋ジャック>シリーズ。というか、刊行存続の危機自体は未だに脱していないっぽい。なんたるちあ!『ザ・キープ』→『ナイトワールド』のコンボでナイトワールド・サイクル(今はアドヴァーサリ・サイクルと呼ぶらしい)のシリーズにやられ、そこに出てきた気になるアイツを追いかけて、『マンハッタンの戦慄』→中編『人生の一日』(エド・ゴーマン編『罠』に収録)→一連の<始末屋ジャック>シリーズ、と追っかけてきたジャックファンクラブ非公認会員(会長はスティーヴン・キング)としては、ここで終わったら先が気になるどころの騒ぎではないデスよ!?ここ数作で、ウィルスンがこのシリーズを、元の『ナイトワールド』につなげる気がさらさらないことが分かってきた以上、行く末は見届けないと気が収まらなさすぎる!ぐああ!
 しかしそれはさておき、もし刊行断絶しても、少なくとも、この作品は刊行されてよかった......。なんとなれば、この作品、個人的には、

 現時点で始末屋ジャックシリーズの最高傑作

 ......だからなのだ。いやぶっちゃけるけど、始末屋ジャックシリーズはもちろんどれも面白いけど、どれもジャックの人生の一日を切り取ったような話なので、時として起承転結的な話の収まり、という意味ではちょっと落ち着かない点もあったのね。ところがどっこい、今回の『凶悪の交錯』と来たら、ハードボイルド風味が久々に前面に出ているせいか、依頼を受ける導入部から、異界の介在が明らかになって物語が大きく動く中盤、苦い展開を経てジャックが最後の「始末」に乗り出す終盤まで、読ませまくりの話運びが素晴らしい。今回の「始末」は、ジャックの手際とは関わりのないところで(いや、ひとつは限りなくジャックの落ち度に近い気もするけど)バッドな展開に陥るんですが、そこから、怒りに燃えたジャックが、全てに対してこの上なくきっちりとした「始末」を付けるラストまでのカタルシスは、シリーズの他の作品をぶっちぎってる。素晴らしい。
 もちろん、アドヴァーサリ・サイクルとしての話も徐々に進んでる。オプス・オメガとかの今後のシリーズに影響を与えそうな重要概念も出てきたけど、今回は遂に、シリーズ読者待望の「あの人物」に対する直接言及が出てきてしまいました。時系列的に『ナイトワールド』より前になるこの作品で、あの人の名前が出てくるということは、もうウィルスンは、本気で今のジャックシリーズの先に、『ナイトワールド:破』みたいなのを構築する気でいるらしいぞ(ジャックはあの人物を『ナイトワールド』で初めて知ったはずなので、そのままだと今回の描写と矛盾する)。謎の第三勢力「犬を連れた女」も、想像たくましくすれば、だいぶ実体が見えてきた感じ。母というか、大母なのでは?

 ともあれ、今回は文句なしのオススメ。今回はジャックの「始末」がメインだから、これから読んでみたい、という新規読者もわりあい入りやすいのでは?シリーズ存続のために皆さんの清き一冊を(笑)!

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