Book Review: 2007年アーカイブ

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 『ドラッケンフェルズ』の冒険を乗り越えたジュヌヴィエーヴと劇作家のデドレフ・ジールックは、今はデドレフの劇場のあるアルトドルフで共に暮らしている。デドレフは、ドラッケンフェルズ事件の顛末を演劇化した作品を皮切りに、いまや天才劇作家の名を欲しいままにしていたが、ジュヌヴィエーヴは、彼の作品の傾向が次第に陰惨な傾向を帯びていくことに不安を覚えていた。一方、かつてドラッケンフェルズ城が存在した場所で、ある存在が目覚め、デドレフとジュヌヴィエーヴを狙って動き始めた…。『ドラッケンフェルズ』のその後のデドレフとジュヌヴィエーヴを描く『流血劇』、人里離れた館での怪異『永遠の闇の家』、刺客に仕立てられたジュヌヴィエーヴが、暗殺対象の粗暴な伯爵の元で体験する人間模様『ユニコーンの角』の、ジュヌヴィエーヴに関係する中篇3編を収録。

 この期に及んでまさか出るとは思ってなかった、ジャック・ヨーヴィルことキム・ニューマンの新作。しかも、以前刊行された『ドラッケンフェルズ』の新訳と併せて一気に計3冊同時刊行。『ドラキュラ崩御』からこっち、もう二度とニューマンの作品は拝めないかと思ってたですよ…うううう…よかった…。つうかホント、何で今更(笑)。英語版Wikipediaのニューマンの項を見る限り、2000年代に入ってからは寡作っぽいからなぁ。でも短編集『The Man from the Diogenes Club』とか超読みてェ!ディオゲネス・クラブからの男とか、みんなチャールズ・ボウルガードみたいな素敵ジェントルメンなんだぜきっと!きゃー!きゃー!
 …で、『吸血鬼ジュヌヴィエーヴ』ですが、テイスト的には『ドラッケンフェルズ』のスピンオフっぽい感じ。スピンオフという意味では、もう1冊の『ベルベットビースト』の方がより適当なんですが、この『吸血鬼ジュヌヴィエーヴ』に収録されている作品も、『ドラッケンフェルズ』さえ押さえておけば、それぞれ単品でそれなりに楽しめるし。人気だなぁジュヌヴィエーヴ。されど『流血劇』のラストでえーっとなったヒトは、『永遠の闇の家』の冒頭でもっとえーっとなるでしょう(笑)。ワタシも最初に『永遠の闇の家』を読み始めた時には訳が分かりませんでした。でも最後まで読むと、オチはそれでいいのかと思いつつ(笑)今ではウォーハンマー風不条理サイコホラーとして結構お気に入り。でもやっぱり全体としては『ドラッケンフェルズ』外伝だよなぁ。でもやっぱりニューマンは手堅くて面白いんだよなぁ…。
 何はともあれ、ニューマン好きもそうでないヒトも、興味があるなら是非とも押さえておくべき一品。『ドラッケンフェルズ』読了が前提ですが(笑)。

 ところで、固有名詞の表記が途中で断りもなしに変化するとかマジ勘弁してください。スケドーニが途中から何気なくシェドーニに表記が変わってて、気づくまで鬼のように混乱したでございますですよ。校正はしっかりと!
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 前に出た『ラヴクラフト全集7』でてっきり打ち止めだと思っていた、創元のラヴクラフト全集ですが、なんと別巻とか言って新刊がリリースされていたのであった。とは言っても、今回はラヴクラフト本人の作品ではなく、ラヴクラフトが添削した他作家の作品をまとめて収録するという形。なるほど、だから別巻なのね。とはいえ、ラヴクラフトの鬼添削っぷりはつとに有名なので、実質ラヴクラフト本人の新作と考えても良かろうて。
 ……とは言うものの、ゼリア・ビショップとか、アドルフォ・デ・カストロとかの定番作家の定番作品も入ったりはします。『イグの呪い』や『電気処刑器』なんて読むの何度目だわし(笑)。でもでも、恥ずかしながら、特に『電気処刑器』にラヴクラフトの添削が入っていたとは知らなんだ…。他にも、青心社のクトゥルーシリーズを読みつけてるようなヒトなら、覚えのある作品が他にもちらほら。とはいえ、ラヴクラフト添削シリーズという括りで分類された短編集、というのもまとめ方として面白いのでそれはそれでよし(笑)。

 収録作品を個別に見てみると、C・M・エディ・ジュニアとかいうあんまり聞かない名前の人の作品が4作品も収録。4作品のうち、『灰』と『幽霊を喰らうもの』は割と凡庸な気がするけど、シリアルキラーを題材とした作品をラヴクラフト的に書いたらこうなる、という見本のような『最愛の死者』は、コズミックホラー関係ないけど、全収録作品の中でもトップレベルの出来。オチが投げっぱなしジャーマンの『見えず、聞こえず、語れずとも』も、『闇をさまようもの』の陳述調テイスト作品としては悪くない。アドルフォ・デ・カストロ『最後の検査』は…基本プロットが『チャールズ・ウォードの奇怪な事件』なんですが…。何か関係あるんだろか…。

アルフレッド・ベスター『ゴーレム100

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 22世紀、ニューヨークの成れの果ての巨大都市、富裕層が贅を尽くす一方、都市下層で溢れかえる貧困層では殺人や強盗が常態化している都市ガフで、突如理解不能の超現実的な連続殺人事件が発生した。蟲が生きたままの人間を喰らい、巨大な化け物が現れ、死体が冒涜的に弄ばれる。有能な警察隊長インドゥニですら困惑するような状況だ。一方、都市の上層では、香水製造会社CCC社が、秘蔵っ子の天才科学者ブレイズ・シマの謎の遁走に悩まされていた。そしてシマの精神分析のために呼ばれた最高の精神工学者グレッチェン・ナン。彼ら3人は、やがてそれぞれの成り行きから、連続殺人事件の元凶である存在を追求することになる。鍵は富裕層の有閑蜜蜂レディたちの集会。彼女らが戯れに行った悪魔召還の儀式で、悪魔とは別の何かが生まれ出でたのだ!3人は現実世界から精神世界へと追跡の手を広げ、遂にその存在――「ゴーレム100」と接触する...。

今更ベスターの新作が出るとはつゆとも思ってなかったわたくしですが、出るもんですよベスターの新作。しかもハードカバー(まぁ国書刊行会だからな!)だからどうしようかと思ってたんだけど、ぱらぱらめくってみたら、なんか妙な活力に溢れまくってる文章だったので即購入。いやはや。
 とりあえず冒頭から、相変わらずのヘンな語感と訳者泣かせな台詞回しのベスター節が健在で嬉しい限り。しかも前半はミステリ仕立て...と言えないこともない展開で、実は『虎よ!虎よ!』よりも『分解された男』の超能力捜査ストーリーが好きだったわたくしにはまさにご褒美です。でも今回、他にも増して色々下品だ(笑)。いや褒めてるんだけど。なんか全編に渡って、人間の三大欲求にドライブされた原始的な活力が話の源になってるような感じですね。自分でも何が言いたいのかさっぱりですが、とにかくそんな感じなのです。しかも途中でいきなり絵本になったりしてベスター心底やりたい放題(笑)。最初、いきなり何が起こったのかと思ったぞ。そして、終盤まで何とかゴーレム100を追跡し阻止する話になってたのに、最後の最後で明後日の方向にステップアップして飛んでいってしまう物語。しかも戻ってこないし(笑)。一番不思議なのは、こんだけやりたい放題なのにも関わらず、ちゃんと面白いことだったりする(笑)。これ、ベスター以外だったら、絶対に面白くもなんともない単なる訳分からん物語で終わってたんじゃないかと思うわたくし。ベスターはすごいな...。

 癖はあるけど、たまにはこういうのもいいかもしれないと思ったり思わなかったり。最近毒にも薬にもならないような作品多いし、時々はこういうアクの強めな作品を読むのもオツかもだ。こんなんばっかでも困るけど(笑)。
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 人間の意識を小さなメモリー・スタックに蓄えることが可能となり、意識の伝送や肉体の変更が可能となった27世紀。元エンヴォイ・コーズであり、地球で 特赦を得たタケシ・コヴァッチは、今はサンクション第4惑星で、政府雇いの傭兵部隊・カレラ機甲部隊の一員として、反政府のケンプ軍といつ果てるともない 戦いの最中にあった。だがそこで出会ったシュナイダーという男から得た思わぬ話。戦いの前線真っ只中のダンダレク海岸、そこに隠されたハイパーキャスト・ ゲートを抜けて出られるサンクション星系の深宇宙に、古代火星人の残した恒星間宇宙船があるというのだ。人類をはるかに凌駕するテクノロジーを秘めた火星 人の遺産を押さえることができれば、莫大な利益を得ることができる。儲け話に乗ったコヴァッチは、収容所に囚われていた考古学者を救い出し、火星人の利権 の独占を狙う企業の重役と手を組むと、訳ありのスタックから選抜したチームを組み、ダンダレク海岸へと向かうが...。

 というわけで、前作 『オルタード・カーボン』以来、待ちに待ってたリチャード・モーガンの新作。つうか正直出るとは思ってなかった(笑)。だって海外系って、鳴り物入りで出 てきてもあっという間にフェードアウトしてしまうのが常だからなぁ。『スカル・セッション 殺戮の脳』、皆が忘れてしまってもボクは忘れてないよダニエル・ヘクト!『Babel Effect』出せよどこか(涙)!プレストン&チャイルドはヘクトよかマシだけど、皆は知らんがワタシは大好きペンターガスト捜査官も『殺人者の陳列 棚』以来全く音沙汰なし。泣くぞ!そんなこんなに比べれば、リチャード・モーガンの刊行ペースは矢継ぎ早と申しても良いでしょう。......海外作品の読みすぎ で何かの感覚が凄くずれてきてないかわし。

 で、肝心の作品内容はといえば...。前作『オルタード・カーボン』は、SFテイストで彩った ハードボイルドストーリーが最大の魅力でしたが、今回の『ブロークン・エンジェル』は逆に、ハードボイルドテイストで彩ったSFでございますですね。一見 単に逆になっただけのように見えますが、リチャード・モーガンがSF書きとしてはもしかして凡庸なんじゃ、という疑念を呈した瞬間、これは非常に重要な問 題になったりする(笑)。ぶっちゃけ、今回の作品の面白さは、ハードボイルド方面にどれだけ価値を見出せるかにかかってマス。前作は本筋がハードボイルド 系だったので、SF部分は(良くも悪くも)彩りで済んだけど、今回はSFのほうが本筋だからなぁ。言いたくないけど、このハードボイルド文法がなかったら この作品、ハヤカワ文庫SFあたりで粗製乱造される並作品とそう変わらないよね...きゅう。まあ中盤の展開が半分くらい、放射能汚染された海岸で考古学者が ハイパーキャスト・ゲートを開けるのをひたすら待ちながら「今朝は歯ぐきから血が出ちゃったよー、明日は吐血するかもなHAHAHAHA!」とか言いつつ (言ってない)グダグダ放射能で弱っていくというどんより展開でカッフン、という事情もありますが(笑)。いやはや。

 とはいえ、標準以上には面白いし、タケシ・コヴァッチはいいキャラなので次回に期待したいわたくしなのでした。いやそれ、今回は駄目だったって言ってるのと同義なんじゃ...(笑)。
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