Book Review: 2008年アーカイブ

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 邪神の眷属の急襲に遭い、霊能力者タイタス・クロウが親友アンリ・ド・マリニーとともに行方不明となってから早10年。既に誰もが生存を諦めていたそのとき、アンリ・ド・マリニーが、不思議にも往事の姿のまま、半死半生で発見された。10年前のあの時、マリニーとクロウは、あの<ド・マリニーの掛け時計>の中の異次元に飛び込み、邪神の眷属の手から逃れたのだ。そして、不明だったクロウも、マリニーの導きで遂に帰還を果たす。クロウの口から語られる真実とは......。

 というわけで、『タイタス・クロウの事件簿』『地を穿つ魔』に続く第3弾のタイタス・クロウ・サーガ。正直なんかもう義務感だけでつきあってるような気もするけどきにしない(笑)。前作『地を穿つ魔』では、ぽっと出のウィンゲイト・ピースリー教授に全部持ってかれてたタイタス・クロウですが、今回はどんな話かというと、だいたいこんな感じ。

「毎回、邪神の眷属に追い立てられるたびに、為す術もなく痛めつけられるばかりだったボク......。でもあの日、遂に意を決して掛け時計の中に入ったんです!するとびっくり!宇宙は自由に飛び回れるし、身体は全身交換でムキムキな上に若返ったし、ついには夢にまで見たあの娘に一目惚れされて彼女まで出来ちゃいました!今のボクはエリシアでとってもハッピーです!さあアンリ、君も掛け時計に入って、一緒に夢の国へ行こうゼ!(キラッ☆)」

 ......嘘は言ってません。

 まあ、話はだいたい(ホントに)そんな感じデス。というかクトゥルー本筋とほとんど関係ねぇ(笑)!つうか普通にタイタス・クロウ版『タイム・マシン』になってて吹きました。ウィルマース財団がクトゥルーの眷属に乾坤一擲の大アタック!とかいうネタもプロローグとエピローグだけで即終了!まるで放送コードの厳しい国のベッドシーン(事前と事後のみ)のごとし!前作ではジャッカー電撃隊のビッグワンのごとく、美味しい役どころを全部持っていったピースリー教授も、序盤に出てきて雰囲気を出すために適当に語った後はハイ、サヨナラ。いいのか!?それでいいのか!?

 ぶっちゃけ、コズミックホラー的な観点から言ったら、それこそチャールズ・ストロスの『残虐行為記録保管所』とかの方がよっぽど本質に近いような気がします......。だがこの作品を気に入っていないかといえばさにあらず、ここまで別物だと、普通に別物として楽しめる(笑)。少なくとも、前作の『地を穿つ魔』よりはずっと気に入ったわたくしなのだった。ちゃん。

ジョー・ヒル『20世紀の幽霊たち』

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 ジョー・ヒル...誰?というわけで、本屋でたまたま見つけて衝動的に買ってみた短編集。血まみれの女の幽霊が出るという映画館に関わった男の人生を描く『20世紀の幽霊』、昆虫に変身した男を描く『蝗(いなご)の歌をきくがよい』、発達障害の少年が作り出した段ボールの迷宮にまつわる怪異を描く『自発的入院』などを収録した怪奇幻想短編集。

 ...ということになっているけど、とりあえず言っておきたいことが...。これ、収録作品の3分の1くらい(体感)が、怪奇関係ない普通の小説に思えるんですが...。死体とか血とか出てくるけど、話の本筋は普通(というのは、幻想でもSFでもない、という意味での普通)の短編、みたいなのが結構収録されてるよね...。発達障害の少年と父親との交流を描く『うちよりここのほうが』とか、無賃乗車で放浪する少年の『寡婦の朝食』とか、離婚した妻子を訪ねに行くブルーカラーの男の話『救われしもの』とか。風船人間が普通に生活している世界、という突拍子もない前提を除いたら、『ポップ・アート』もそうと言えるかも。ヲヲヲ~!ワタシが日頃読みもしなければ興味もない世界の話を!ある意味こっちのほうがあなたの知らない世界だよ!SFとホラーが主戦場の人間にこんなものを!うわぁぁぁぁん!

 ...とはいえ、どれもこれも、読んだ感じでは、しっかりとした語り口で、確かにこれがデビュー作とは思えない安定っぷり。気に入った作品も結構あったわけで。作者不詳の怪奇小説の作者を捜すアンソロジー作家の顛末『年間ホラー傑作選』や、表題作『20世紀の幽霊』は気に入ったし、上にも書いた『自発的入院』とかはなかなか怖い作品。個人的に、一番気に入ったのは『アブラハムの息子たち』。アブラハムっつったら普通は「あっぶらは~むに~は7にんのこっ、ひとりはのっぽであとはちび~」の方のアブラハムだとばかり思ってたら、全然違うけどよく知ってるアブラハムでビビりました。アブラハムっちゅうか、エイブラハムやね。確かにこんなんなりそうだ、あの男は...。

 そんなこんなで、なかなかに完成度の高い一品ではあります。ところで、あとがきでジョー・ヒルの家族構成を見てすげー驚いたわたくし。サラブレット過ぎるだろジョー・ヒル...。
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 20世紀初頭のイギリス。ある夜、大英博物館近くで、老人が車に轢かれて事故死した。彼――コンスタンティン・デュヴァルは、神秘学の権威であり、ヨーロッパの上流社会に大きな影響力を持っていた。かつて長年彼と行動を共にしていたコナン・ドイルは、その死に不審を抱き、その過程で、禁断の知識が記された幻の書物『エノクの書』が事件に関わっていることを知る。裏でうごめく陰謀を打破するために、かつてデュヴァルが組織し、ドイルも属していた組織・神秘結社アルカーヌムを再結成するときがきたのだ。かつての仲間を集めるため、ニューヨークへと飛ぶドイル。だが折しも、ニューヨークでは謎の惨殺事件が続発し、禁書を初めとする悪魔学の知識に長けた、かつてのアルカーヌムの仲間の一人、ラヴクラフトはその猟期事件の犯人として精神病院に収監されてしまっていた。仲間の一人フーディーニは非協力的であり、孤独な戦いを強いられるドイル。エノクの書にまつわる今回の事件の謎を解くことができるのか...。

 というわけで、久々にワタシの守備範囲内のジャンルで出てきたトマス・ウィーラーの『神秘結社アルカーヌム』は、ホラー版の特攻野郎Aチーム(AはアルカーヌムのA)みたいな内容。特攻野郎Aチームの内訳は、言わずと知れたコナン・ドイルに、ある方面には言わずと知れまくっているH・P・ラヴクラフト、世紀の脱出王フーディーニに、ヴードゥの女王マリー・ラヴォー!......最後誰?まあそれはともかく、悪魔と言えばお約束のアレイスター・クロウリーも出てきて、虚実ない交ぜにしたジェットコースターホラーが!......ということは別になく、お話は極めて普通に、丁寧に進行していきます。つうか、普通によくできた神秘学系ホラー。この本を読もうという人でさすがにコナン・ドイルを知らんという人はいないと思うけど、ラヴクラフト誰?とかクロウリー誰?という人も手を出してエニシンオッケーです。マリー・ラヴォー誰、という人はワタシと握手だ。
 しかし、いわゆるクトゥルー神話よりHPL原神話の方が好き、という人間にとって、この作品におけるH・P・ラヴクラフトの違和感っぷりはガチ。キリスト教的世界観の神と悪魔における悪魔学の泰斗、という設定だけで既に、コズミックホラーとは相容れなさそうな違和感をがもがもと醸し出しているラヴクラフトさんですが、他にも、

 ・変なガジェットを取り出して悪魔探知にいそしむラヴクラフト(特殊装備!エルトダウンシャーズ!!)
 ・キレて悪魔相手に大立ち回りを演じるラヴクラフト
 ・行きがかり上、つい少女の入浴シーンを覗いてしまいHER、HERするラヴクラフト


 ...ラヴクラフトさン、あんた一体どこへ行こうとしているんだ......(涙)。

 そんなですが、最近欠乏気味だったホラー分を補給するにはうってつけの一品。結論としては、全米マジシャン協会最強、ということで(笑)。
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 人類がコロニー連合として宇宙に進出し、宇宙の他種族との衝突状態に突入してから幾年月。現在、人類は水面下で危機的状況にあった。人類に敵対的な三種族が連合を組み、密かに人類に対する総攻撃を計画しているという情報をキャッチしたのだ。三種族の同時攻撃を防衛する能力は、今の人類にはないのだ。だが、人類にとって不可解だったのは、そのうちの二種族は、最近まで敵対関係にあったという事実だった。しかも、その裏には、意識研究のリーダーであり、三種族側に寝返った天才科学者チャールズ・ブーティンが噛んでいるらしい。対策に窮したコロニー防衛軍は、意識研究の過程で偶然残されていたブーティン自身の意識記録と、ブーティンの遺伝子情報を元に、ブーティンの意識を再現したと思われるクローン、ジェレド・ディラックを作り出した。表向きは、ゴースト部隊――防衛軍に志願したものの、軍務に就く前に死亡した地球人のクローンから構成される部隊――の隊員として。だが、期待とは異なり、ディラックはブーティン本人としては蘇らなかったため、やがてブーティンの記憶が蘇ることを期待されたまま、ディラックはそのままゴースト部隊として配属された。ディラックはゴースト部隊員として様々な経験を積んでいくが、やがて...。

 というわけで、ヨボヨボな爺さん婆さんが超身体機能を有した美男美女にリサイクルされて宇宙の戦士、という、斬新すぎるんだかベタすぎて誰も手をつけてなかったのか判断つきかねる設定だが面白すぎたのでまあよし、な前作『老人と宇宙』で、一躍メインストリームに躍り出てしまったジョン・スコルジーの新作が出てきたので速攻ゲット。前作の老人リサイクル前後は本当に笑わせてもらったからなぁ。ただ、その後の展開も水準以上ではあったものの、何せ前半のじじいリサイクル(だんだん呼び方が雑になってるぞわし!)が面白すぎたのでインパクトに欠ける感はあったりなかったりしたのもまた事実。早い話が、スコルジーは一発屋じゃないかと疑っていたのですよわし。

 などと思いつつ買ってみた続編のこれ『遠すぎた星 老人と宇宙2』ですが...面白いじゃないかスコルジー!前作のじじいリサイクルのような新味のある設定描写、というと、今回はゴースト部隊員の速成教育課程がそれに相当するです。肉体を急速に成人相当まで育てたクローン兵士、という意味では割とよく見る設定ではあるけど、この作品のように、育成過程に説得力ある描写をした作品は意外とあんまりないイメージ。前作の時点でゴースト部隊の異様さ(年齢的な意味で)は既に描写されていたんだけど、今作でちゃんとその点に描写的な裏付けが成されました。ブレインパル万歳!
 ストーリー的にも、ちゃんとディラックの中に潜むブーティンの意識は目覚めるのか、オリジナルのブーティンは何故人類を裏切ったのか、人類はどのように三種族連合の攻撃を凌ぐのか...といった要素や、前作で活躍したジェーン・セーガンが今作でも重要な役回りだったりと、前作読者へのサービスも怠らない(でも前作読んでなくても別に問題なしの)描写で、読み手の興味を惹きつつ、人物描写ありアクションありと実にしっかりしたもの。いや、ミリタリーSFって、酷いものはホントに酷いのよ...。未来でただ戦ってりゃいいんだろ的なのが結構あってですね...ひっくえぐえぐ。でもこれだけしっかり描けてれば全く問題ナッシング。前作は、もしかしたらスコルジー自身も、ストーリー的な観点では、じじいリサイクルのインパクトを持てあまし気味だったのかも知れんのう。わたくしとしては、これでスコルジーは一発屋では無かったと判断いたしますです。そりゃ歴史に残る傑作じゃないけど、昨今、当たり前の娯楽作品を当たり前に供給できる作家ってのはそれだけで貴重なのよ...。

 というわけで、安心して楽しめる作家さんがまた一人。面白いよ!あと、ガメランの名前の中にちゃんとストロスが入っている...やはり君とは仲良くなれそうだッ!ガシイッ(握手の音)!

ジェイムズ・P・ホーガン『黎明の星』

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 木星から分離した小天体「アテナ」とのニアミスのため、大陸の形すら変貌するほどの大災厄に見舞われた地球。土星で独自の文化を築いた地球人の一派・クロニア人に救出されたのも、ごくわずかな人数のみだった。そして数年後、クロニアは災厄後の地球の調査を決定する。かつて地球から脱出し、今はクロニアに協力している地球人、ランデン・キーンもその調査行に同行する。はたして、地球に、原始状態に退行してはいるものの生存者が発見され沸き立つ一行だが、その裏で、かつての有力者だった地球人たちが、往時の権力を取り戻そうと暗躍を開始していた...。

 で、久々のホーガンなんではありますが、

 いくら何でもマンネリ過ぎだろホーガン(笑)!

 かつてホーガン大好き人間...というか、今でも大好きな作品が何個もあるホーガンスキーとしては慚愧に堪えないが、さすがにこれはもう、ホーガンの才能は枯渇してしまったのではと本気で思わざるを得ないレベル。いや、誤解の無いように言っておくと、作品単品のレベルは決して悪くはない。悪くはないんだけど...今までずっとホーガンを追いかけてきた身からすると、今回は、英知と善意のかたまりなクロニア人といい地球人わるい地球人との対比、文化レベルで劣る相手とのファーストコンタクトと相手の尊重か利用かという方向とか、どんなに贔屓目に見ても今までの作品のセルフパロディとしか思えないよ...。いやそのつもりで書いてるなら大したモンだけど。『造物主の掟』と『黎明の星』との違いは、「造物主の方は地球からタイタンに向かったけれど、黎明の方ではタイタンから地球に向かっている」くらいだし。クライマックスまで全く同じネタだし...『造物主の掟』を読んだヒトで、今作のクライマックスを吹き出さずに読めるヒトはいないのではないだろうか。タロイドならともかく、同じ人間でそれはさすがに無理があるよホーガンさん(笑)!ここまでくると、クロニア人哲学も、ガニメアン三部作(『内なる宇宙』はスピンオフと理解されたし)のガニメアンのそれを連想せずにはいられないしなぁ...。うーむむ。

 まあでも、今までホーガン買ってきた人はたぶん買うと思うので特にコメントはしません(笑)。で、この本で初めてホーガンに触れるというヒトは...あー、まあ、楽しめると思いますよ?何故に疑問系。
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 この世には映画や小説で言われているようなオカルトは存在しない。だが、ある種の知られざる数学的定理――NP完全問題をP完全問題に変換して、どんな問題でも多項式時間内に解けるようにしてしまうチューリング定理や、根拠の無い事象にまで確率を設定してしまえるような推論など――は、解くだけで時空に影響を及ぼす。適切な手段と組み合わせれば、時空に大穴を開けて、お隣の宇宙から招かれざる隣人を招いてしまいかねないのだ。ある者は、単なる数学的探究心からたまたま定理にたどり着くことで宇宙的危機を誘発し、またある者は、邪な目的から、あえて禁断の数式に手を染める。だが偶発にせよ故意にせよ、それらの事象は未然に防がれている。なぜならば、政府組織の一部には、それらを秘密裏に処理する部署があるからだ。そのひとつが、英国政府が設立した組織<ランドリー>である…。
 ボブ・ハワードは<ランドリー>の新人エージェント。彼自身、幾何曲線反復法を考え付いて、あやうくバーミンガムを全滅させそうになったところを<ランドリー>にスカウトされた経歴の持ち主だが、そんな彼の現場での初仕事は、アメリカから帰国できなくなっている大学教授モーとの接触。モーもまた、意図せずして危険な確率工学に手を出していたため、アメリカ政府から出国を禁止されていたのだ。どうということはない任務のはずだったが、オカルトを背景にした中東のテロリストグループがモーを拉致したことで事態は一変する。モーの奪還には成功したものの、テログループの背景には、ナチスの魔術研究機関アーネンエルベの関与も推察された。真相究明のため、ボブとモーは、アーネンエルベの遺物が保管されている、アムステルダムの残虐行為記録保管所へと向かうが…。表題作『残虐行為記録保管所』、および、意外なものに潜んでいた恐怖が騒動を引き起こすスラップスティック中編『コンクリート・ジャングル』の二編を収録。

 つうか、チャールズ・ストロスが新作出してるなんてちーとも情報キャッチできてなかったですよワタシは!『シンギュラリティ・スカイ』でワタシの心を鷲掴みにしたストロスの新作なのに、普段チェックがおろそかになりがちなハードカバーであるという点と、今まで邦訳されてきた作品とは毛色が違いすぎる表紙であ、実は一応『アイアン・サンライズ』も読了してます。最初のノヴァ輻射が広がる描写が一番の見所で、物語はというと、主人公たちが結構絶望的な状況に追い込まれて、これどうやって逆転するのかと思ってたら、主人公キレて悪役を突き飛ばす!その先にはたまたま先の尖った何かが!みたいな終わり方をしてかなり吹いた覚えがあります。いや面白かったけど!
 てなわけで、基本チャールズ・ストロスは変なハナシを書かせると真骨頂だと把握しているんですが(笑)、この『残虐行為記録保管所』もなかなかに変なハナシで、ワタシは大変気に入りましたです。「SF+クトゥルー+スパイスリラー」という売り口上は確かにその通りなんですが、ストロスなのでストイックな雰囲気になるはずもなく。SFは確かにその通り。というか、現代に魔法、という作品も数あれど、この作品は描写が馴染みすぎてて逆に新鮮(笑)。つうか、魔法とか異界の解説がただの理系オタクの戯言にしか見えなくてステキです。クトゥルーという点に関しては名義借りの側面が強いですが、実は意外と「見るなよ!絶対に見るなよ!みーたーなー、ぎゃああぁぁぁぁ…」というクトゥルー神話の基本は踏まえていたりするのでOK。禁断の蔵書が満載の書庫とか出てきます。嘘は言ってません。そしてスパイスリラーに至っては…<ランドリー>、諜報機関っつうより、普通に役所だろこれ(笑)。『コンクリート・ジャングル』の黒幕とか酷すぎて涙が出てきます(注:褒めてます)。主人公は一応戦闘訓練とかも受けてるらしいんですが、実際やってることは良識ある理系コンピュータ馬鹿。スバラシイ。
 だのに、『残虐行為記録保管所』のクライマックスの寂寥描写はちょっとぞっとしたりするんだな。黒幕の一ひねり方もちょっと感心してしまったし。

 『シンギュラリティ・スカイ』『アイアン・サンライズ』のエシャトンシリーズとは別に、新たに楽しみになってしまったストロスの新シリーズ。風変わりなホラーが読みたい人も、軽妙なユーモアSFが読みたい人も両方イケるのでオススメです。
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 帝都アルトドルフは今、女ばかりを狙った残忍な連続殺人犯”獣”の話題で持ちきりだった。扇動家エフィモヴィッチが”獣”の正体は貴族だと民衆を煽り立てたため、”獣”を起因とした政情不安は暴動寸前にまで発展せんとしていた。そのような状況下、事態を憂慮したズーデンランド選帝侯ヨハン・フォン・メクレンベルク男爵は、独自に調査を開始した。若く正義感にあふれる警備兵エルセッザー、一匹狼の元警備隊長ハラルド、シグマー教団から派遣されてきた心霊鑑定士ロザンナらを味方に付け、”獣”を追跡し始する。さまざまな人々の思惑が絡み合い、緊張と混迷の色を深めていく状況の中、彼らが見出した真犯人は…。

 というわけで、表紙は他の2冊と同じジュヌヴィエーヴなのに、ジュヌヴィエーヴ系列とは世界観を同じくするだけで特にジュヌヴィエーヴとは関係ない(笑)ジャック・ヨーヴィルことキム・ニューマン謹製のウォーハンマーノベル第3弾。ごめんなさい、読み終えたのはずいぶん前だったんだけど、単純に感想書くのサボってました。ぺこり。だが、さすがにキム・ニューマン作品をこれ以上放置しておくわけにもいかん。キム・ニューマンだからな!『The Man from the Diogenes Club』、誰か邦訳してよ…っていうか梶元靖子超希望。理由は後述。

 で、『ベルベットビースト』ですが…うむ、やはり「ウォーハンマー版ドラキュラ紀元」と言わざるを得ない(笑)。かたや切り裂きジャック、かたや”獣”、貴族階級と下層民の軋轢あるしジョン・ジェイゴ(風のエフィモヴィッチ)いるし、ニューマンお得意の群像劇やら状況描写もあいまって、帝都アルトドルフが何度読んでもロンドンにしか思えません(笑)。とはいえ、ジュヌヴィエーヴの物語とは基本的に独立している分、作品単体を先入観なしに楽しめるし、そうなるとむしろ、いつものキム・ニューマン印の鉄板レベル保証済みの話運びを堪能できるというもの。”獣”の正体も、正体割った後でさらに一ひねり加えるという余裕っぷり。個人的には、今回まとめて出た3冊のウォーハンマーノベルのうちでは、かなりのお気に入りの部類に入るです。だが、今回はニューマンの力量とは全然別の理由で物語を堪能し切ることが難しいのだけれど…理由はこれから。

 で、その理由ですが、噂には聞いていたけど、この巻は特に翻訳が酷い。本当に酷い。今回HJ文庫Gで出た他のウォーハンマーノベルも、他の感想だと翻訳酷い酷いという言及がかなりの確率であるんだけど、ワタシ自身はといえば、確かに引っかかるものはあるにせよ、別に特別あげつらうほどのことでもないよなぁ、てな感じだったのよ(同一作品中における固有名詞の統一、みたいな基本中の基本は別にして。できてなかったよね、『吸血鬼ジュヌヴィエーヴ』では)。でも今回はアカン。遂に「何度読んでも何が言いたいのかさっぱり分からない」というレベルのパートが出現するようになってしまった(笑)。誰か、第四部冒頭の数ページをどう解釈していいのか分かりやすく解説してくださいよひっくえぐえぐ。前後の文脈から、暴動の原因となった事象について言及しているのだろう、というところまでは想像付くんだけど、具体的な文章レベルまで降りると、読めば読むほど混乱してくるというECMジャミングな翻訳文。訳が難しいというのは容易に想像がつくけれど、せめて小説文として意味が通る程度までには頑張ってください…(涙)。
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