Book Review: 2009年アーカイブ

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 裏社会に紛れ、人々の表には出せないトラブルを静かに解決する男、それが"始末屋"ジャックだ。人智を越えた<同袍>と<異界>の争いに巻き込まれた今も、彼は変わらず始末屋の仕事を続けている。今回の依頼は2つ。一つは、躍進めざましい世界規模の新興宗教に入信した末に行方不明となった息子を捜して欲しい、との老母からの依頼。もう一つは、弱みにつけ込んで金をゆする謎の脅迫者からの脅迫を止めて欲しい、との修道女からの依頼。教団への潜入と、脅迫者の手にある弱みの種の消去との、デリケートな二つの依頼を、同時に着実に進めていくジャック。だが、成功しかけたはずの依頼は思わぬ展開を見せ、かつてない苦しい戦いを強いられるジャック。さらに、彼の行く手に、またしても<異界>の陰謀が立ちふさがる......!

 一時は刊行存続の危機に瀕した<始末屋ジャック>シリーズ。というか、刊行存続の危機自体は未だに脱していないっぽい。なんたるちあ!『ザ・キープ』→『ナイトワールド』のコンボでナイトワールド・サイクル(今はアドヴァーサリ・サイクルと呼ぶらしい)のシリーズにやられ、そこに出てきた気になるアイツを追いかけて、『マンハッタンの戦慄』→中編『人生の一日』(エド・ゴーマン編『罠』に収録)→一連の<始末屋ジャック>シリーズ、と追っかけてきたジャックファンクラブ非公認会員(会長はスティーヴン・キング)としては、ここで終わったら先が気になるどころの騒ぎではないデスよ!?ここ数作で、ウィルスンがこのシリーズを、元の『ナイトワールド』につなげる気がさらさらないことが分かってきた以上、行く末は見届けないと気が収まらなさすぎる!ぐああ!
 しかしそれはさておき、もし刊行断絶しても、少なくとも、この作品は刊行されてよかった......。なんとなれば、この作品、個人的には、

 現時点で始末屋ジャックシリーズの最高傑作

 ......だからなのだ。いやぶっちゃけるけど、始末屋ジャックシリーズはもちろんどれも面白いけど、どれもジャックの人生の一日を切り取ったような話なので、時として起承転結的な話の収まり、という意味ではちょっと落ち着かない点もあったのね。ところがどっこい、今回の『凶悪の交錯』と来たら、ハードボイルド風味が久々に前面に出ているせいか、依頼を受ける導入部から、異界の介在が明らかになって物語が大きく動く中盤、苦い展開を経てジャックが最後の「始末」に乗り出す終盤まで、読ませまくりの話運びが素晴らしい。今回の「始末」は、ジャックの手際とは関わりのないところで(いや、ひとつは限りなくジャックの落ち度に近い気もするけど)バッドな展開に陥るんですが、そこから、怒りに燃えたジャックが、全てに対してこの上なくきっちりとした「始末」を付けるラストまでのカタルシスは、シリーズの他の作品をぶっちぎってる。素晴らしい。
 もちろん、アドヴァーサリ・サイクルとしての話も徐々に進んでる。オプス・オメガとかの今後のシリーズに影響を与えそうな重要概念も出てきたけど、今回は遂に、シリーズ読者待望の「あの人物」に対する直接言及が出てきてしまいました。時系列的に『ナイトワールド』より前になるこの作品で、あの人の名前が出てくるということは、もうウィルスンは、本気で今のジャックシリーズの先に、『ナイトワールド:破』みたいなのを構築する気でいるらしいぞ(ジャックはあの人物を『ナイトワールド』で初めて知ったはずなので、そのままだと今回の描写と矛盾する)。謎の第三勢力「犬を連れた女」も、想像たくましくすれば、だいぶ実体が見えてきた感じ。母というか、大母なのでは?

 ともあれ、今回は文句なしのオススメ。今回はジャックの「始末」がメインだから、これから読んでみたい、という新規読者もわりあい入りやすいのでは?シリーズ存続のために皆さんの清き一冊を(笑)!
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 朧な太陽のもと、魔術や降霊術が横行する地球最後の大陸ゾティーク。その大陸を舞台に、死体を食らう神が君臨する街、人体が接ぎ木された奇怪な庭園、死者の帝国を築く降霊術士、魔術で誘惑する妖姫などを題に取った短編17篇を収録。

 ......クラーク・アシュトン・スミスというと、最近手に入れられる作品といえば、もっぱらクトゥルフ神話関係の短編になるかと思うわたくし。しかもワタシの思い出せる限り、『彼方からのもの』以外はほとんど全部ヒューペルボリアのお笑い系というアレっぷり。いや、クトゥルフ抜きでもそれなりの筆致なのに内容はお笑い系。かろうじてマトモなのは『白蛆の襲来』くらい?『アマタウスの遺言』も、首を切っても首を切っても、都度より酷い姿で復活してくる罪人に「またお前か」タグを付けざるを得ないレベルだったという。ヒドい(笑)。だのに今回の『ゾティーク幻妖怪異譚』は正統派ダークファンタジーっぽいじゃないですか。ワタシからすると一体何があったんだCAスミス、と言わざるを得ません。いやそれ逆!

 で、『ゾティーク幻妖怪異譚』なんですが、これはいい。すごく骨太の幻想文学作品でしたですよ。年代的にはラヴクラフトあたりとほぼ同年代であろうに、これだけ上品に死と官能を振りまけるのはすごいな。この年代にはもっと素朴な描写が主流だと思ってたけど、あるところにはあるもんだ。いやワタシが知らなかっただけですけど......。というか、ヒューペルボリア系の話はホントリラックスして書いてたんだなスミス......。あと、この短篇集の収録数もステキですね。しっかりした作品がたっぷり17篇詰まってるおかげで読み応え十分、お腹も(いい意味で)いっぱいに。こういう類の作品が好きなら是非に。うーん、『イルーニュの巨人』とかも探して読んでみるべきか......。
book_Fahy_FLAGMENT.png 世界中の海を旅し、知られざる自然や動植物を紹介する人気番組「シーライフ」のスタッフを乗せたトライデント号は、南太平洋上の孤島・ヘンダース島からの救難信号をキャッチした。ヘンダース島は、18世紀にイギリスの軍艦が発見したきり、現在に至るまで全く調査されていない島だった。未踏の地に上陸できる興奮に沸き立つ「シーライフ」のスタッフ。しかし、彼らを待ち受けていたのは、既知の生物とは全く異なる進化を遂げた、奇怪で獰猛な動植物の群れだったのだ!次々と虐殺される上陸メンバーたち。「シーライフ」が放送した衝撃的なライブ映像の内容を重く見たアメリカ政府は、ただちに最新の装備を配した調査隊をヘンダース島に送り込む。しかし、ヘンダース島の過酷な生存競争に適応した生物群の前では、NASA製の最新装備さえ無力だった。この生物たちが本土に上陸してしまったら、既存の生物はたちどころに絶滅させられてしまう......!

 最近はめっきり少なくなった、小説でのモンスターパニック系列もの。しかも、『エイリアン』的な一匹狼モンスターではなく、多数のモンスターがわーっと押し寄せてくるような内容のものを思い出してみると、それこそマイクル・クライトン『ジュラシック・パーク』が真っ先に思い浮かぶし、後は......後は......えーっと、ピエール・ウーレットの『デウス・マシーン』?とにかく、ありそうで意外と無いような気がするわたくし。特に最近は全くお目にかかった覚えがない。わし大好きなのに(笑)。そんなところに彗星のごとく現れた本作『フラグメント 超進化生物の島』。表紙からして既にいろいろ半端無いことになってますが、特に「超進化生物」というセンテンスがワタシの琴線に久々に直撃。超進化生物ですよ。スーパーでエボリューションですよ。これは買わなければ嘘だろう。いやみんなが買わなくても俺は買う。というわけで即購入。

 で、結論ですが、これは面白い。よくできてる。アメリカでは「マイクル・クライトンの衣鉢を継ぐ」とか言われてるらしいけど、ジュラシック・パークを踏まえると、確かにそう言いたくなるし、かといって皮肉ではなく、いい意味でそう言われているのだろうというのも良く分かる。科学的な肉付けで説得力を持たせつつも展開はスピーディで飽きさせないし、奇っ怪な生物はばんばん出てくるし、最後はヒューマニティテイストまで完備。スバラシイ。出てくる生物はそれこそ『デウス・マシーン』のミュータントゾーンもかくや、というぶっ飛びっぷりだけど、ここで一応、そんな奇怪生物を出すにあたって、違法研究の副産物や、放射線やウイルスによる突然変異や、宇宙からの異生物混入といった良くある手法を一切使っていないという点は指摘しておいてもいいかもしれない。ヘンダース島のみなさんは純粋進化の産物。ディスクアントとかヘンダース・ラットとかスパイガーとかもみんな純粋進化の産物Death。嘘だッ(笑)!マジおっかねぇ!フューチャー・イズ・ワイルドっていうか、現代で既に十分ワイルドにも程がある、と、上から下まで上も下もなく喰ったり喰われたりのヘンダース島生態系を見ながら思うのでした。かしこ。

 ともかく、この手の作品に飢えてたアナタにはかなりのオススメ作品。期待には応えてくれるぞ!
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