アレステア・レナルズ
 「啓示空間」
チャールズ・シェフィールド
 「マッカンドルー航宙記 太陽レンズの彼方へ」
ロバート・J・ソウヤー
 「ヒューマン ‐人類‐」
大瀧啓裕[編]
 「暗黒神話体系シリーズ クトゥルー 13」
ジョージ・R・R・マーティン
 「タフの方舟 2 天の果実」
ウィリアム・C・ディーツ
 「天空の秘宝」
ジョージ・R・R・マーティン
 「タフの方舟 1 禍つ星」
リチャード・モーガン
 「オルタード・カーボン」
仁賀克雄[編]
 「幻想と怪奇 −宇宙怪獣現わる−」
ウィル・マッカーシイ
 「アグレッサー・シックス」
仁賀克雄[編]
 「幻想と怪奇 −ポオ蒐集家−」
ロバート・J・ソウヤー
 「ホミニッド ‐原人‐」
F・ポール・ウィルスン
 「始末屋ジャック 見えない敵」
フィリップ・K・ディック
 「ドクター・ブラッドマネー」
コナン・ドイル
 「北極星号の船長」
H・P・ラヴクラフト
 「ラヴクラフト全集 7」
マイケル・グルーバー
 「夜の回帰線」
:アレステア・レナルズ「啓示空間」
 かつて驚異の秘密が隠されているといわれる謎の空間シュラウドから生還した考古学者ダン・シルベステは、惑星リガーサムで異星種族の遺跡を発掘し、かつてその異星種族を滅ぼした一大変異の手がかりを得る。一方その頃、元兵士クーリは、謎の女マドモワゼルから、シルベステの暗殺依頼を受ける。また、ラムシップ・ノスタルジア・フォー・インフィニティ号の乗員も、ある目的のために動き出していた…。

 というわけで、「本年度ベスト1のSFだ!」という堺三保のオビ以上に、そのクソ分厚さ自体が目を惹く本作。一瞬、その厚さだけでもう読むのやめようかと思ったけれど(笑)、よく考えたら、これがもし上下巻に分かれてたら、至って普通の規模のハナシだよなぁ、と考え直して一応買ってみる。…が、巻頭で登場人物がイラスト紹介されている時点で大変不安になる。およそ天地開闢以来、イラストで登場人物紹介しているハヤカワSFで良品に当たった試しがないのだ、ワタシは。でも常にその法則が覆される可能性もあるわけで、先入観で物事を決めてはイカン、と自分に言い聞かせつつ読み進んで、本日何とか読了した次第。で、感想。

 …本年度ベスト1なのは本の厚さだけでございますですね。

 いや、駄作ではない、駄作ではないんだが…ぶっちゃけ別に良作でもないや(笑)。ぶっちゃけすぎだ。つまりは普通。壮絶に普通。どうしようもなく普通。読んでてあんまり面白くないんだけど、なんかもうちょっと読み進んだら面白くなりそうな気配もあるんで、それを期待して読み続けたら、面白くなる前に終わっちゃった、みたいな。ネタは豊富に突っ込んであるから退屈しないけど、どれもこれも使い捨ててる感じでもったいないし、伏線も生きてるんだか死んでるんだか、てな具合に印象薄いし、人間描写に特に見るべき点があるわけでもなく、中核の謎も「啓示空間」なんて意味深なタイトルつけた割には結構ありふれたネタな感じだし。でも1000ページオーバー。せめてシェイプアップしようよアレステア・レナルズ…。『マインドスター・ライジング』のピーター・F・ハミルトンは同系列の作家になるらしいけど、個人的には、ハミルトンの方が地味だけど手堅い面白さがあったよ…。ギニャース!

 こういうとき、ワタシは大抵「好きなヒトなら」という類の薦め方をするんですが、この本の場合、なんせこの厚さなんでさすがに躊躇してしまうワタシなのだった。よし、今回は「物好きなヒトなら」という薦め方にしよう!……ひどすぎる(笑)。

:チャールズ・シェフィールド「マッカンドルー航宙記 太陽レンズの彼方へ」
 太陽系随一の天才科学者、アーサー・モートン・マッカンドルー博士。かのアインシュタインとも並び称されるほどの頭脳を持つ彼は、また極めつけの変人でもあった。そして新たな理論、新たな法則を求め、考えなしにほいほい行動してしまう彼の手綱を握るのは、古馴染みの女船長、ジーニー・ペラム・ローカー。今回もおなじみの二人が、宇宙狭しと駆け回る!科学の探求に忍び寄る罠『影のダークマター』『新たなる保存則』、太陽の重力が作り出す重力レンズの焦点で拾われた謎の通信の正体は?『太陽レンズの彼方へ』、信じられないことにあのマッカンドルー博士に母がいた!そして父は?『母来たる』の4編に、シリーズおなじみの付録『科学とサイエンス・フィクション』なども収録した待望の新作!

 というわけで、正直最初は創元にかつがれてるとしか思えなかった(笑)、15年ぶりの完全新作マッカンドルー。つうかそもそも、シェフィールドの作品自体がもう十ン年刊行されてない体たらくの昨今、いきなりシェフィールドの作品の中でもトップレベルの面白さのマッカンドルーシリーズの新作が出るなんて言われてもそりゃ信じる方が無理ですよ創元さン!だが何はともあれ出たのは事実、素直にめでたい、超めでたい!シェフィールドの新作なんてもうお目にかかれないと思ってたから喜びもひとしお。わーいわーい。
 そして読み始めたわたくしは、作品内の技術革新に深い感慨を覚えたのであった。ああ、もうマッカンドルー式相殺航法宇宙船が普通に市井で運用されてる!前作では50G加速しかできなかった試作型船・マーガンサーが、改修を受けて100G加速可能になってる!そして今回、『太陽レンズの彼方へ』で登場する最新型・USFターミガンに至っては、その加速度限界は400G!素晴しい!素晴しいィィ!この全てのラムスクープ推進は道を空けろ!的な宇宙空間驀進っぷりはいつ見ても痺れますですね。ぶっちゃけ超巨大なトライマグニスコープ(と言っても、この名前に即座にピンとくるのは筋金入りのホーガン信者くらいかも)な<ジオトロン>とか、前作のカーネルとかも含めて、地に足の着いた未来科学っぷりはまさにシェフィールドの面目躍如。あと、メタンハイドレートを石油に代わる燃料として捉えている作品が多い中、「メタン?燃料にするの?」「メタンのような貴重な有機材料を燃やすなんて正気の沙汰じゃない!合成してメシ作るんだよ!」的なやりとりがあって盛大に吹きました。地球人はとりあえずごはんですか。ごはんごはん。

 などといきなりガジェットに目を奪われてみましたが(笑)、物語の内容の方もさすがはシェフィールド。ユーモアも交えた物語的な楽しさをちゃんと押さえながらも、各々の作品の主題がちゃんと科学技術のそれを柱にしてるのが楽しみなこのシリーズ。「科学や科学的考察を取り除いても深刻なダメージを受けない小説は、もともとハードSFではない」という自身の言をちゃんと実践してるぞシェフィールド。さすがに前作のカーネルや相殺航法みたいな全く新しいガジェットこそ出てこないものの、今回も押さえるべきところはちゃんと押さえてます。というか、どうにも理屈をひねり出せない部分は故意に触れてないよねシェフィールド(笑)。まあそれも、科学的事実に立脚してないネタは出さない、というシェフィールドの良心から来るものなので許します。そういう意味では、『新たなる保存則』は、ある意味シリーズの異色作でございますですね。一方、マッカンドルーシリーズにしてはやけにサスペンスフルで派手な『太陽レンズの彼方へ』も別の意味で異色作。なんだ、結構バラエティに富んでるじゃないか!前作譲りのシェフィールドのベタなユーモア感覚を味わいたければ『母来たる』を。あと、巻末の『科学とサイエンス・フィクション』の、読みやすさ分かりやすさは異常(笑)。ここを読むのもこのシリーズの楽しみなんだこれが。

 …などと読み進む前に、先にあとがきを読んで知った衝撃の事実。シェフィールド、2002年に脳腫瘍で既に永眠…。嘘だ!嘘だ!こんな面白いシリーズがもう読めないなんて…!そして、その事実を踏まえて『科学とサイエンス・フィクション』の、シェフィールドの結びの言葉を読んで、思わず涙してしまったわたくし。シェフィールドの中は、いつでも未来への期待でいっぱいだったんだなぁ…。

 我々の時代が、シェフィールドが望んだように、驚異の数々であふれかえらんことを。

:ロバート・J・ソウヤー「ヒューマン ‐人類‐」
 量子コンピュータの実験中の事故により、ネアンデルタール人の物理学者ポンターは、クロマニヨン人が支配する平行世界――つまりこの世界に飛ばされてしまった。そこで出会った人々の助けもあって、無事に元の世界に戻ることができたポンターは、今度はネアンデルタールの大使として再び人類宇宙に戻ってきた。今度は正式に二つの世界をつなぐ役割を担ったポンターたちの行く手には…。

 というわけで、すっかり感想書くのをサボってた(笑)、ソウヤーのネアンデルタール・パララックスシリーズの第2弾。ヒューマンと聞くと反射的に「ぶち殺すぞヒューマン」という言葉しか思い浮かばないわたくしですが読んでもいいですか?なぜ問いかける。
 で、肝心の中身ですが…いや、なんというか、手堅い。とても手堅い。ものすごく手堅い。がっちがちに手堅い。安心して読めること極まりないくらい手堅い。そして手堅すぎて真新しい要素は何もない(笑)。戻ってきたネアンデルタールに対する人類たちの反応とか、文化交流とか、逆にネアンデルタール世界を訪問したメアリの目を通して描かれるネアンデルタール文化とか、何気にちょっとサスペンスってみたりとか、いろいろ読ませる要素はあって事実とても楽しく読ませてくれるんだけど、逆にあまりに良くまとまりすぎてて、コレ!という売り要素が全然ボクのハートに来ないよ!どうしてくれる!逆ギレしてどうする。
 ただし、何気に最後の最後で大ネタの萌芽が蒔かれているので、シリーズ3作目でそのネタが大きく開花するのに期待。でもソウヤーって、ネタの勢いで引っ張るタイプの作家じゃないからなぁ…どうなることやら。不安だが楽しみだ。どっちなんだわし(笑)。

 ところで、3作目のタイトルは『Hybrids』ですか。読む前からポンターとメアリの異種族ロマンスの行方は決まったようなものですな。って違ったらどうしよう…。

:大瀧啓裕[編]「暗黒神話体系シリーズ クトゥルー 13」
 青心社より、過去から連綿と刊行されてきたクトゥルーシリーズも、ついに今回の13巻をもっておひらき。またえらくキリのいい数字で収まったこと(笑)。ワタシ個人も、クトゥルー神話の入門用として、このシリーズには大変お世話になりました。最初はダーレスの旧神vs旧支配者にヒャホーイしていたものの、じきに創元のラヴクラフト全集に走ったおかげで、神話体系を善悪二元論に貶めたダーレスファッキン!になったのもよい思い出です。でもアメリカ海軍を駆ってルルイエに核攻撃する話だけはガチ。つか何書いてんだダーレス…。

 で、最終巻の13巻ですが、個人的な見所としては、なんといってもロバート・バーバー・ジョンスンの『遥かな地底で』(国書刊行会から出てた『ク・リトル・リトル神話集』では『地の底深く』)が収録されていること。ニューヨークの地下深くで、いつ果てるともない「駆除」を続ける警邏隊のおはなし。正直、神話体系のおはなしというより普通の怪奇小説に近いんだけど、にも関わらずワタシが今まで読んできた怪奇短編の中でも10本の指に入るお気に入り作品。オススメ。他にも、C・ホール・トムスンの『緑の深淵の落とし子』とか、もう緑で深海でぬらぬらしてたらクトゥルーですか、とか思うも、なかなか正統派の面白さがあってスキー。掉尾を飾るジェイムズ・ウェイドの『深きものども』は、1920年代とかでなくて、ついに「現代」といってもいい時代を舞台に普通にクトゥルーの話が書けるようになったか、という点で感慨深いものがありますですね。冒頭のダーレス2篇は…いろいろしょんぼりだ(笑)。

 この本をもってこのシリーズは完結。だけど、なんか今度全13巻を収めたBOXセットとかが出るらしいじゃないですか!畜生、自前で全部揃えてなかったら俺が買いたいよ(涙)!

:ジョージ・R・R・マーティン「タフの方舟 2 天の果実」
 前巻『タフの方舟 1 禍つ星』に続く、胚種船<方舟>号を駆って商売しまくる、宇宙商人改め環境エンジニアのハヴィランド・タフの活躍を描く短編集その2。獣同士を闘技場で戦わせる風習のある惑星の者たちに対するタフの商売の顛末を描いた『魔獣売ります』、都市を占拠した宗教家となりゆきで対決する『わが名はモーセ』、そして、前巻から引き続いて苦境に陥った惑星ス=ウスラムに対して再びタフが環境エンジニアリングを施す『タフ再臨』『天の果実』の4篇を収録。

 というわけで、前巻読んでから楽しみだったタフの続編。相変わらずタフは頑張ってるようでなによりなにより。『魔獣売ります』ではヘンテコ動物たくさん出てくるし、ス=ウスラムに対してはこれまたずんどこヘンテコ動植物を大量投下。『禍つ星』で言及のあった視肉ってあんなだったのか。いや…なんか…ちょっと…おいしそう…じゅる。
 が、収録順を日本オリジナルにした結果、なんかこの巻読んでると、まるでタフが<方舟>号の暗黒面に目覚めていく過程を描いているようにしか見えません(笑)。わたしゃ前巻で、タフが圧倒的な力を有しているのに、そんなことに対して頓着せずにひょうひょうと環境エンジニアリングしてたりするのが結構好きでしたですよ。客に対してはほとんど原価すれすれしか要求してないし(本当に原価見積もりが正しいとしてだけど)、あこぎというよりむしろ良心的なのでは、とすら思えてくる前巻のタフ。しかるに今回のタフときたら、まるで前巻で抑圧していたタフの負の面が一気に表面化してきたかのようだ(笑)。結構細かく金をむしりとってて、文字通りあこぎになってるし、前巻より尊大になってるよキャラが…。『魔獣売ります』では、何気に一惑星の文化風習を一人で破壊しちゃってるし。しまいにゃ「ワシが新世界の神じゃーッ!!」とか言ってるし(言ってない)。なんか自分の力に自覚的な上にそれを言葉に出しちゃうタフって見たくなかったなぁ…個人的な好みですが。くすん。

 それでもそこらの作品よりずっと面白い作品群であることは間違いなし。最近のSFで読むもの探してるならとりあえず読んで外れナッシングなのでよいですよ。よいよい。

:ウィリアム・C・ディーツ「天空の秘宝」
 元宇宙軍人・現賞金稼ぎのサム・マッケイドは、地球帝国軍から、何かすごい秘密をつかんだ行方不明の大佐を探してほしいと依頼を受け、何やらいろいろ冒険しながら何となく解決しました。おしまい。

 …頼む…このやる気の無さで察してくれ…これほどの大物は久しぶりだ…。まあディーツだしな…。『戦闘機甲兵団レギオン』のディーツだしな…。ロボが戦うっちゅうから期待して買ったらカックンした『戦闘機甲兵団レギオン』のディーツだしな…。地球人兵士とネコ型宇宙人がまぐわったりする『戦闘機甲兵団レギオン』のディーツだしな…。つうかディーツは分かってねぇよ…ネコなのは耳としっぽだけでいいんだ…耳としっぽだけでよ…いや問題はそこなのか。
 いやしかし、何で今更ディーツなのかハヤカワ、と思いながらも、表紙絵がなかなかにセンス良かったのでつい買ってしまった本作。出来はと言えば、最後まで読んだ自分を褒めてあげたいくらい(笑)。まあ前科から言ってある意味妥当なセンであったといえばそうなのだが。とにかく凡庸。致命的なくらいに凡庸。プラスにもマイナスにも飛びぬけた部分が一切ナッシング。銀河一でも凄腕でもないステロタイプな主人公とお仲間たち、危機また危機の連続…というか、羅列になってる平板な展開、アイデア的にも真新しいものもなし。いっそのこと下方向に飛びぬけたほうがまだ救いがあったのでは、とすら思える究極の平均点。これが『タフの方舟』と同じ1986年の作品だと思うと父ちゃん情けなくて涙が出てきます。ただ唯一、序盤の公認暗殺レベル3のシーンだけは面白すぎです。通勤中の電車の中であやうく吹きそうに。暗殺でも不意打ちでもNEEEEEEEE!! その後、登場人物が「もうだめかと思いました…なんといってもレベル3の暗殺です…」とかしかめつらしく言ってるところで笑い袋の底が抜けました。それはひょっとしてギャグで言ってるのか。

 まあ、日頃あんまりこのジャンルを読んでないヒトなら先入観なく楽しめるかもしれませぬ…。それを差っぴいてもあんまりな出来だとは思いますが(笑)。とりあえずディーツはリチャード・モーガンの『オルタード・カーボン』あたりを3000回くらい音読!

:ジョージ・R・R・マーティン「タフの方舟 1 禍つ星」
 人類が宇宙に進出してからもう幾星霜もの歴史の中にあった、連邦帝国の最先端の遺伝子工学の宝庫であり、その超絶的なバイオテクノロジを用いれば、惑星まるごとを滅ぼすことも救うこともできる、神にも等しい力を持った連邦帝国環境工学兵団の胚種船<方舟>号!……だが<大瓦解>から1千年が経過した今では、連邦帝国も胚種船も歴史の闇の中に消えていた。が、ふとしたことからとある学者がその存在をかぎつけ、胚種船のもつ計り知れない価値を我が物とすべく、一癖ある仲間たちとともに現地へと向かう。そしてその足として雇われたのが、これまた一癖どころではない宇宙商人ハヴィランド・タフである。現地で深刻なトラブルに巻き込まれた一行の中で、さてさてタフはどう立ち回るのやら?タフが<方舟>号を手に入れるまでの顛末を描いた表題作ほか、タフと<方舟>号がトラブルを引き起こしたりトラブルに巻き込まれたりで活躍する他2編を収録。

 なんだ、やればできる子だったんじゃないかマーティン(笑)!今までのワタシ内におけるジョージ・R・R・マーティンのイメージは、どちらかといえば叙情的な作風を得意とする作家、で、確かに腕は確かだけどワタシの好みとはやや方向が違うな…とか思ってたですよ。ところがどっこい、今回の『タフの方舟』ときたら、宇宙を飛び回るわユーモアは生きてるわ変な宇宙生物は出てくるわで大変に楽しめる良質エンターテイメントじゃあーりませんか。面白かったよコレ!
 そもそも、主人公のハヴィランド・タフのキャラ自体が王道からは程遠いのに面白いとはどうしたことだ。なんせ身長2メートル以上の太鼓腹の色白無毛ハゲで態度は慇懃、なのにお仕事にはそれなりに誠実で猫大好き、なんて個性的すぎて主人公的なヒロイックさはおよそ皆無なのに、いざ中身を読んでみると、このキャラでなくてはイカン!と思えてくるぞ。上手いなぁ。他のキャラクターもどれも上手く個性付けされてるし。特に『禍つ星』の人類学者セーラの神経逆撫でっぷりは異常(笑)。訳者うまく翻訳しすぎだ!
 それに、SF的な面白さもちゃんとあるしね。個人的に一番それがよく出てると思うのが、3作目の『守護者』。突如として出現した怪物たちに脅かされる海洋惑星のためにタフが活躍するこの作品、人間を襲う怪物たちの多彩さから意外なオチまで、SFならではの不思議生物大集合で大好きです。つうかノリがほとんど南海の大決戦だよなコレ。あと、最後のタフの台詞とオチも。ベタすぎてゲラゲラ笑っちまったぞい。

 この調子で下巻の方もどうぞよろしくお願いします…ついでにマーティンにはもうしばらくこの路線で行っていただきたい…(笑)。

:リチャード・モーガン「オルタード・カーボン」
 27世紀。人類は銀河系の惑星に散らばり、国連の専制支配化にある。人間の心はデジタル化され、小さなメモリー・スタックに記録されて頭部のつけねに埋め込まれている。肉体が衰え死を迎えるとスタックが残る。それを維持し外側の肉体を買う金がある人間は、永遠の命を得られるのだ。一方、バックアップを取っていないメモリー・スタックを破壊された人間はR・D(リアル・デス=真の死)を迎える。犯罪者は精神のみを収容庫に拘禁され、財力がなければ肉体は売られる。
 元特命外交部隊員のタケシ・コヴァッチは、除隊後に犯罪に加担したため170年の保管刑を宣告され、外惑星ハーランズ・ワールドの収容庫に入れられたはずだった。しかし彼は刑期半ばにして、見知らぬ肉体を得て目覚める。目覚めた彼が知ったのは、自分の心がオールド・アース(地球)に伝送され、この男の身体にダウンロードされたこと、そして彼をダウンロードしたのは、ローレンス・バンクロフトという何百年も生き続けている地球の大富豪だという事実だった。バンクロフトは最近殺され、スタックのバックアップと肉体のクローンを用いて生き返っていたのだが、その調査をコヴァッチに依頼したいというのだ。報酬は10万国連ドルと新しい肉体、そして特赦。コヴァッチは調査を開始した…。

 本屋に並んでいたときから、黒ケースに収まった特異な外観で目を引いた本作。つうか今時ケース入りの本なんて、何この国書刊行会…とか思ったけれど、表に書いてあるあらすじ(上の冒頭1段落は丸々そこからの引用ですが)を読んだ瞬間、ワタシのアンテナが強烈に反応。書かれている内容はそう極端に目新しいことではないけれど、そこに物事の表と裏がちゃんと現れているのに惹かれたのだ。貧富。光と影。設定だけは凝ってるけどその実割と薄っぺらい、なんてよくあるパターンの近未来ものではなさそうだ、と思ったワタシはケースを引っつかんで即レジにダッシュしたのだった。さあ、明日はどっちだ。

 …面白い!

 結論から言うと、久々の大当たり。これは面白い。久々にワタシの勘が当たったわい。いやー、「これ超面白そう!つうかこの設定で面白くないわけがないって!」と勇んで買った『アグレッサー・シックス』がしょんぼり超大作だったこともあって、最近自分の嗅覚に自信をなくしかけてたのよ…(笑)。
 何がいいかって、ちゃんと設定が生きてるのがいい。いやホント、最近は設定するだけして生きてない作品が多くて。最近だと『アグレッサー・シックス』とか『アグレッサー・シックス』とか『アグレッサー・シックス』とか(笑)。しかるにこの作品は、そもそもの始まりだって、バックアップ後の48時間の記録が消失したバンクロフトの調査からだし、メモリー・スタックとスリーヴ(代えの肉体)が一般化した世界ならではの風俗なり表裏なりが、ちゃんと地に足が着いた描写されててしっくりなじむなじむ。説得力のある描写ができてるってのが強いよなぁ。
 そしてそれ以上に、ちゃんとストーリーが話として面白い。つうか、SF設定をさっぴいても、普通にハードボイルドとして良作の部類に入るんじゃなかろかコレ。人物たちも魅力的に描き分けられてるし、謎解きありドンパチあり濡れ場ありと、見所もばっちり。文体もワタシ好みのエスプリ風味。ちゃんとしたハードボイルドストーリーに、かっちりかみ合ったSF設定ときたら、もう褒めるしかないじゃないか(笑)。いやよかったナリ。

 お値段2800円だけど、元はがっつり取れる秀作。数年待てばヴィレッジブックスあたりから文庫化しそうな気もするけど(笑)、見た目にも目立つし中身もよい作品なので買っても損なしと思うですよ。オススメ!

:仁賀克雄[編]「幻想と怪奇 −宇宙怪獣現わる−」
 ハヤカワが目下絶賛復刊中の怪奇小説短編集その2。今回も多彩な収録作家を取り揃え…って、あれ、リチャード・マシスンとか、ロバート・ブロックとか、パトリシア・ハイスミスとか、なんだか前に見た名前が多々ありますヨ?まあ収録作品の質さえよければ、作者がかぶってるのなんて些細な問題ではありますですね。創元の『999』シリーズみたいに、各巻ごとに違う作家を収録するシリーズかと思ってた…。

 で、今回の『宇宙怪獣現わる』ですが…なんか…収録作品の方向性にまとまりがないなぁ。というか、単に節操がないと言ったほうが正しいかも(笑)。空想癖の強い少女と女教師との交流を描いたゼナ・ヘンダースン『なんでも箱』なんて、幻想色はあるけど普通にいい話だし、クリフォード・D・シマック『埃まみれのゼブラ』とか、表題作のレイ・ラッセル『宇宙怪獣現わる』なんて星新一あたりが書きそうなユーモアSFだし。かと思えば普通の怪奇小説もあるし。でもやっぱり、前巻『ポオ蒐集家』の方が、方向性が怪奇方向にはっきりしてて面白かったかもだ。でもなんかヘンリー・カットナー『その名は悪魔』なんかは妙に印象に残ってるなぁ。いや、話の内容自体は比較的どうでもいい作品なんですけど(笑)、これはタイトルの勝利ですね。技あり。

:ウィル・マッカーシイ「アグレッサー・シックス」
 西暦3366年、各星系へと版図を広げた人類に、突如として災厄が襲い掛かった。オリオン座方面から、突如として強大な異星人艦隊が侵攻してきたのだ。異星人艦隊の圧倒的な戦闘力の前に、人類の防衛線はあえなく撃破、各星系の植民地も次々と陥落する。太陽系すら風前の灯の今、残る最後の希望は<アグレッサー・シックス>…敵の言葉を話し、敵のように生活し、思考することを任務とする特殊チームの分析結果だけなのだ…。

 てなわけで、新鋭ウィル・マッカーシイの邦訳第1弾は、何だかワタシの琴線にドツボな設定のミリタリーSF。つうかもう、<アグレッサー・シックス>という語感だけでごはん3杯はいけます。『マインドスター・ライジング』の強行要員(ハードライナー)以来のヒット語感!ステキだ!なんか表紙もバタくさい秘密部隊っぷりがナイスだ!さあアグレッサー・シックスよ、敵を知り、敵のように思考し、そこから得られた洞察で人類を救うのだ!いざ、敵になりきれ!そんな具合にマックスハーなワタシはドキドキしながら読み始め!

 …アグレッサー・シックス、全然敵になりきってねぇ(笑)!!

 いや、なんつーか、これは…敵になりきって分析してどうこうという以前に、「えーっと、どうやって敵になりきろうか?」とか考えてる間に物語が終わってしまったような感じ?読めども読めども、アグレッサー・シックスの面々が敵になりきったことによって洞察を得るとか、そんなシーンはちっとも出てこないのであった。面子自体がそもそも、とりあえず言葉だけ真似してみました、みたいなライトなヒトタチと、逆になりきりすぎてプッツンしてしまってる(けどあんまり役に立ってない)ヒトに二極分化してるし。肝心の洞察は明後日の方向からたなぼた的に得られます…ってそんなのアリか!この美味しすぎる設定にあって(涙)!まあ、異星人のグループ構成が、クイーン1体、ドローン2体、ワーカー2体、ドッグ1体、とかいう設定があっても、その各個体がグループ内でどういう役目を果たしているのかすら物語中でほとんど描写されないような状況下だし、そんな中でなりきれっつっても無理か…トホホ。
 だのに、アグレッサー・シックスが異星人と人類の艦隊戦を分析するシーンとかでは、描写に変に小技効かせてるんだよな…。最初読んだときに、アグレッサー・シックスたちが何を話しているのかがいまいち理解できなかったわたくし。2回読み直してやっと、彼らが異星人の視点に立って、異星人のつもりで人類側の戦術を評価しているだという描写だと分かったのだった。そこから逆に異星人の攻撃パターンを割り出すとか、そういう意図なんだろな…。普段はあんまりなりきれてないのに、そこだけがんばられても…とほー。

 悪い作品ではないと思うけど、設定を生かしきれてない気がする、と言わざるを得ないなぁ、個人的には。設定で期待させられた落差分、いつもより辛いわたくしなのだった。ちーん。

:仁賀克雄[編]「幻想と怪奇 −ポオ蒐集家−」
 1975年(なんとまあ、ワタシの生まれる1年も前だよ)にハヤカワから出版された怪奇小説短編集がこのたび復刊。気がついたら、リニューアル後に紹介した本の中の怪奇小説率がバカにならなくなっているくらいのホラースキーなわたくしは、ご多分に漏れずちゃっかり買っていたのであった。つうか、これカール・ジャコビの『水槽』が収録されてるじゃん!なんかの本でこれがクトゥルフものだと紹介されているのを見てからこっち、読んでみたくてずーっと探してたのよ『水槽』が収録されてる本!カール・ジャコビはおかげで『黒の黙示録』も買っちゃったよ…『水槽』収録されてなかったっぽいけど…。いや、『黒の黙示録』自体は大変なアタリだったんですが(笑)。

 で、この『幻想と怪奇 −ポオ蒐集家−』ですが、これがまたずいぶんとバランスの取れた良質の怪奇短編アンソロジーで思わずにっこりのわたくし。前に買った創元の『怪奇礼賛』も、あれはあれでよかったんだけど、ワタシの感覚からすると、収録作品がちょっと古すぎたのよね。でもこっちは新しすぎず古すぎずの絶妙なラインが揃ってるし、収録作自体も、怖い作品から、ブラック・ユーモアに近い作品まで幅が広い。オーガスト・ダーレスの『淋しい場所』も、名前だけは良く聞くけど今まで読めてなかった作品の一つだよなぁ。結構良かったよ!ダーレスこっち方向でもっと頑張れよ(笑)!
 他には、怪奇小説というよりは切な系SFだけど、ロバート・シェクリイの『夢売ります』とか、ブラック・ユーモアたっぷりのチャールズ・ボーモント『無料の土』なんかがお気に入り。そしてもちろんリチャード・マシスンの『二年目の蜜月』。やっぱマシスンは上手いなぁ…。で、冒頭に触れたカール・ジャコビの『水槽』ですが…なるほどクトゥルフ系ないかにも感が(笑)。つうか、これ読んでると、クトゥルフ系って、ある種の小説技法の総称みたいに思えてくるな…。

 何はともあれ、よい短編集でございました。満足満足。このシリーズは今後2冊出るらしいので、そちらも楽しみ。

:ロバート・J・ソウヤー「ホミニッド ‐原人‐」
 カナダのサドベリーにあるニュートリノ観測所で、突如として予想もしない事態が発生した。ニュートリノ観測用の密閉されているはずの重水タンクの中に、突如として謎の男が出現したのだ!男は辛うじてタンクの中から助け出されるが、男の風体は、現代のホモサピエンスとは明らかに違っていた。彼は大昔に絶滅したはずのネアンデルタール人だったのだ!
 …彼の名はポンター。クロマニヨンが絶滅し、ネアンデルタールが進化した世界の量子物理学者だった。だが彼は実験中の不慮の事故により、クロマニヨンの子孫が隆盛を誇るこの世界へと飛ばされてきたのだ。彼の運命は…。

 何この『アウターワールド』の逆パターン!と思わず買ってしまったロバート・J・ソウヤーの新作。昔々、『ターミナル・エクスペリメント』とか書いてた頃は、つかみのネタと中身の展開が激しく乖離していて油断ならなかった(笑)ソウヤーも、『フラッシュフォワード』あたりからギアが噛み合ってきて、最近じゃなんか安心して読めるブランドになってきてますですね。ちなみに『アウターワールド』はSFC初期のポリゴン名作(迷作)。科学者の男が粒子加速器の事故で、「ヤマシタ!ヤマシタ!」とのたまう白ゴリラ人が支配する世界に飛ばされるっちゅうストーリーです。どうでもいいハナシですね。

 で、この『ホミニッド』ですが、正直ネタ的にはなーんにも新味はない気がするんですが(笑)、ネアンデルタール世界での裁判とか、こちらの世界に飛ばされたポンターの描写など、話運びと描写が上手くて、気がついたらとても面白く読んでいた…という不思議作品。いやホント、あっと驚くセンスオブワンダーな要素は何にもないような気がするんだけど、クセがなくて面白いんだよなぁ。なんでだろ。面白かったので、「ネアンデルタールの代わりに、アルファ・ケンタウリから転送事故で飛ばされてきた異星人、に置き換えてもほぼ問題なく同じストーリーで通用するよなコレ」という、ココロの片隅にちびりっと湧いた疑問は不問に付すことにします(笑)。

 ところで、副題に「ネアンデルタール・パララックス1」とか付いてるんですが、これってシリーズ化するんですか…?

:F・ポール・ウィルスン「始末屋ジャック 見えない敵」
 名前を消し、身分を消し、ニューヨークの無関心の中にまぎれて生きてきた裏世界の仕事人、始末屋ジャック。だが彼に最大の危機が訪れた。乗り合わせた地下鉄車内で殺人狂が銃を乱射、やむを得ず愛用のセマリングで応戦してその場を収め、身分が割れる前にその場から立ち去ったものの、彼は乗り合わせた乗客の命を救った「幻のヒーロー」として、新聞記者に追われる身となってしまったのだ。身分が暴かれれば、彼にとっては全てが終ってしまう。そんな中、彼は依頼を受けるが、依頼主は、彼の消息を知るはずもない実の姉だった!しかも、姉の依頼を調査するうち、彼の前には再び「異界」の影が立ちはだかる…。

 F・ポール・ウィルスンが生み出した出色のキャラクター、始末屋ジャック。扶桑社ミステリーにて、『マンハッタンの戦慄』、エド・ゴーマン『罠』に収録の中篇『人生の一日』、『神と悪魔の遺産』、『異界への扉』、『悪夢の秘薬』、と続いてきた一連の<始末屋ジャック>シリーズの最新刊がご登場。ジャック自身は実に地に足の付いた、地味だが確実な裏世界の仕事人なのに、そんな彼が明らかに守備範囲外の異界がらみの事件に否応無しに立ち向かわざるを得なくなる、そんなある種のアンバランスさが魅力のこのシリーズも長編5作目、いよいよ本格的にゴールである『ナイトワールド』に向けて本格的に始動を始めた感じ。今までは始動してなかったんかい(笑)。

 いや実際のところ、今までのシリーズは、異界とは付かず離れずみたいな微妙な距離を保っていたところがあるけど、今作では、ジャックを導く謎の女とかも出てきて、やっとこ本筋に向けて狙いが定まった感があるからなぁ。その意味でも今回は面白いけど、やっぱり今回は、始末屋ジャックの正体が暴かれかねないという状況に追い込まれているところが独特の緊張感となっていて、さらに面白さが加味されてるですよ。
 それにしても、この一連の始末屋ジャックシリーズを読めば読むほど、『ナイトワールド』で始末屋ジャックが剣に選ばれなかったのが謎になってくるなぁ。ここまで読む限り、もうグレーケンなんかお役御免にしか思えんのだが(笑)。その辺りもたぶん今後のシリーズで語られるんだろう。ラヴクラフト全集7みたく10何年もとても待ちきれないので、訳者の大瀧啓裕には一刻も早い続刊の訳出を望む次第でゴザイマス(笑)。ちーん。

:フィリップ・K・ディック「ドクター・ブラッドマネー」
 核戦争が勃発、古き良きアメリカの生活は過去のものとなった。核戦争直前に火星に向けて打ち上げられ、その後核戦争の余波で地球の衛星と化した殖民ロケットからの男のラジオが人々の心の支えになった世界。地上には放射線の影響で突然変異した動物達やフリークスが現れる世界。それでも、各地に点在するコミュニティでは、人々の日々の暮らしが確かに続いていた。これはそんなコミュニティの中の一つのおはなし…。

 かつてサンリオSF文庫から出ていたらしいフィリップ・K・ディックの長編が、このたび創元SF文庫から新たに登場。表紙は鮮やかな宇宙に浮かぶ宇宙ステーションみたいな絵で、これだけ見たら「核戦争で地獄絵図になった世界を、宇宙からひとり見届けなければならなくなった男の悲哀」みたいな話なのかなぁ、とか思ったり、裏のあらすじを読んだらば、「軌道上の男から語られるラジオの言葉が、超能力者の肢体不自由者の修理工や、双子の弟を体内に宿す少女に影響を与え、やがて世界に変革を…」みたいな話なのかなぁ、とか思ったりして、思わず買ってしまったわたくし。相変わらず先読みだけが暴走してるぞわし。

 で、実際読んでみたらば、案の定ぜんぜんそんなことはなかったのであった(笑)。というか、実際には、軌道上に取り残された男も、超能力者の肢体不自由者の修理工も、双子の弟を体内に宿す少女も、全員ホントにただの一登場人物で、必要以上にメインを張ることすらなかったという。なんつうか、核戦争後の世界を舞台とした、極めてまっとうな群像劇。ディックなのに癖の無い極めてまっとうな群像劇(笑)。「核戦争後の世界」とかいうと、某YouはShockな漫画のせいで、荒れ果てきった原野にモヒカンの無法者が横行、みたいなイメージが強いけど、この作品の中の核戦争後の世界のイメージは、むしろ皆が協力して困難に立ち向かう開拓時代のそれを彷彿とさせますですね。巻末の解説にある「いぶし銀の魅力」とは上手く言ったもんだなぁ…まさにそんな感じ。
 でも、なんか巻末の解説では、やたら登場人物を善と悪の象徴にしたがってるけど、ワタシはむしろ、どの登場人物も善悪関係なく我が道を行ってるだけ、という感じがしたですよ。最初、巻末の解説を読んでしまったおかげで、「おお、最後には善と悪の黙示録的な戦いが!」などと例によって訳のワカラン予想を立てていたわたくし。いや、全然そんなことないから(笑)。

 これといって、わかりやすく派手なウリはないけれど、読んだ後でなんだか印象に残る物語。興味があればお手元に。

:コナン・ドイル「北極星号の船長」
 言わずと知れたシャーロック・ホームズの原作者、コナン・ドイルの傑作集と銘打った創元推理文庫のシリーズから、2巻『北極星号の船長』を。いやー、ホームズ自体は『バスカヴィル家の犬』しか読んだことないけど…そのチョイス自体が何かを表してるような気がする(笑)。この『北極星号の船長』も正直怪奇小説だというからついつい。ついつい。ああこりゃこりゃ。この間『ラヴクラフト全集7』も読んだばかりだしな!

 で、『北極星号の船長』ですが、さすがはドイル、可もなく不可もない普通の怪談だ(笑)。最初の『大空の恐怖』とか時代の割にハッタリ効いてるし、特に表題作の『北極星号の船長』なんて、静かに狂気に陥っていく船長がかなりいい感じなのだけれど…(ワタシにとっては)悲しいかな、このヒト、最後でオチを言葉で解説しようとするのね…。まさにラヴクラフトみたいに、曖昧模糊として粘液質なオチを好むわたくしとしては、この直截さはまぶしすぎるデス!あと、本の後になればなるほど、こじんまりとまとまった作品ばかりになっていくのはどうしたことか。最後の『寄生体』でちょっとがんばったかと思ったら…何この腰砕けな結末(笑)!

 でも、作品によっては19世紀のビンテージものなのに、ここまで普通に楽しめる辺り、やはりドイルは偉大なのかもだ。アンティーク怪奇が好きなアナタに。

:H・P・ラヴクラフト「ラヴクラフト全集 7」
 いやー長く待たされたこと待たされたこと。黒丸尚の死後ずーっと放置状態で実質続刊中止の『ワイルド・カード』シリーズと同様、もう絶対なかったことにされてると思っていた(笑)最新巻にして最終巻『ラヴクラフト全集 7』、満を持してのご登場。さて、10年以上もこんな放置プレイかましてくれた大瀧啓裕はあとがきでどんな釈明をしてくれるのかな…と思ってあとがき読んでみたらば、一転、厳しい状況におかれながらも仕事に真摯な姿勢を取り続けていたことに大変感銘を受けるわたくし。一切の妥協を許さないその姿勢は、とても『インスマス年代記』を訳した人間と同一人物とは思えません。まああれは大瀧啓裕の弟子が訳したという説もあるしな!というか、そうでないと、キム・ニューマンの『ドラキュラ戦記(原題:THE BLOODY RED BARON)』のタイトルを、よりにもよって『血まみれ男爵』などと訳した大罪を許すわけにはいかん(笑)。

 で、今回の7ですが、既刊に多かれ少なかれ漂っていたクトゥルフ神話とのつながり臭は薄くて、普通に幻想&怪奇小説の趣が強いです。もちろんそれは全く問題ナッシング。むしろ、いわゆるダンセイニ風と言われる幻想あふれる作品から、ラヴクラフトのテイストが如実に現れてる怪奇小説、さらには初期作品や書簡集まで幅広く取り揃えられてる今回の7はかなりのお買い得商品。初心者の入門に最適、という類の幅広さとは意味が違うけど(笑)。ワタシのお気に入りは、『宇宙からの色』を髣髴とさせる冷静な陳述調がたまらない『忌み嫌われた家』。『月の湿原』とかもラヴクラフトにしては真っ当すぎる(笑)怪奇小説でいい感じ。それに、夢書簡の中の、バーナード・オースティン・ドゥワイア宛書簡も書簡なのに読ませるぞ。名前だけは散々聞いていた『霧の高みの不思議な家』もやっと読めた…。これと『未知なるカダスを夢に求めて』の最後の方のセンテンスだけで、ノーデンスを旧神の長にしてしまうダーレスがステキだ…(笑)。
 とにもかくにも、ラヴクラフト分に飢えているヒトなら満足モンの出来なので買って損なし。つうか、ラヴクラフト分に飢えてるならわしが何も言わんでも買ってるか…(笑)。

:マイケル・グルーバー「夜の回帰線」
 フロリダで妊婦が惨殺された。臓器と胎児の脳が摘出されているという猟奇的な反抗にもかかわらず、押し入った形跡もなく、目撃者の証言も何故か当を得ない。ジミー・パス刑事は、母体に残された多種多様の化学物質と、現場に落ちていた木の実から調査を開始する。一方、人類学者ジェーン・ドゥはその犯行を知って慄然とする。彼女は犯人を、そして犯人が何をしようとしているかを知っていた…。

 新潮文庫からちょっと前に出たスーパーナチュラルスリラー。オビに「魔術師達の戦いが始まる!」とか何とか書いてあったので気にはなっていたのだけれど、ちょいと買うのが遅れましたですね。ホントにスーパーナチュラルスリラーならそういうのはすごく好きだぞわし!
 で、読んでみたところ…半分くらいがジェーン・ドゥの日記で、アフリカのサンテリアとか、その手の魔術もアリなんだ、というエクスキューズに満ち満ちていて、内容はとても興味深いけど、ストーリーがちっとも進まないので正直ツラい(笑)。話がどこに転がっていくか後半になるまで全然分からないからなぁ。で、やっと魔術師達の戦いらしきものが始まった!と思ったら速攻終了。ハデさなし。いやハデでなきゃいかんとは言わないけど…散々引っ張っといてこれでもう終り?と思ったのも事実。ホントすぐ終わったな、呪術展開(笑)。
 とはいえ、あんまりスーパーナチュラル方面を期待しなければ、スーパーナチュラル風味のサスペンスものとしてそれなりに楽しめますですね。裏表紙の「知と血が絢爛に交錯する驚愕のスーパーナチュラル・スリラー」ってそれ違うから(笑)!それだったら、むしろニコラス・コンデの『サンテリア』(創元推理文庫)の方がそれっぽかったぞ。でも今手に入るのか『サンテリア』?うーむむ。




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