アダム・ファウアー
 「数学的にありえない」
ケン・マクラウド
 「ニュートンズ・ウェイク」
チャールズ・ストロス
 「シンギュラリティ・スカイ」
マイクル・スワンウィック
 「グリュフォンの卵」
デイヴィッド・マレル
 「廃墟ホテル」
デイヴィッド・マレル
 「トーテム [完全版]」
ジョン・コリアー他
 「怪奇小説傑作集2 英米編II」
ブライアン・ラムレイ
 「地を穿つ魔」
:アダム・ファウアー「数学的にありえない」
 デイヴィッド・ケインは統計学講師だったが、癲癇の発作と神経失調のせいで職を失い、いまは場末のギャンブラーにまで落ちぶれている。だが彼の神経失調は、世界を根底から揺るがす「能力」の萌芽だったのだ。その能力を求めて、政府の秘密機関≪科学技術研究所≫が動き出す。追われ追い込まれ、圧倒的窮地に陥ったその時、遂にケインの「能力」が覚醒する。確率的にありえない連鎖反応を引き起こし、敵の包囲網を突破するのだ…!

 オビを外した表紙を見る限り、どうみても理学系ノンフィクションにしか見えない(笑)この作品ですが、実際はバリバリのエンターテイメント系。しかも微妙に超能力入ってるし。最近こういう軽いノンストップ系エンターテイメントに飢えていたわたくしは、ハードカバー作品なのにも関わらず買ってしまいましたですよ。上下巻合わせて4400円。高ッ(笑)!しかしこの作品、旬を逃したら、後は本気でノンフィクションと勘違いされて売れないんじゃなかろか。原題が『IMPROBABLE』から、邦題『数学的にありえない』は、ちゃんと内容も加味した良い邦題なのだがなぁ。むむー。
 で、この『数学的にありえない』の中身の方はというと、これが久々にぐいぐい読ませる、勢いのあるジェットコースタ。ケインの特異な数学的才能を示す掴みから、追いつ追われつの追跡劇になる中盤、ケインの「能力」で包囲網突破を図る後半まで、いや、久々に一気呵成で読める面白い作品だったですよ。ただ突っ走るだけじゃなくて、ちゃんと伏線張ったり、黒幕に関して叙述トリックを使ってみたりと頑張ってるのも好印象。時々、ケインに合流したCIA工作員の女がいきなり自分語りとか始めたりもするが気にするな(笑)!あと、ケインの「能力」は、SF方面読みすぎてるとあまり新味を感じない(特にグレッグ・イーガン(笑))かもしれないけど、これはそっちばかり掘り下げる作品ではないのでこれはこれでよし!素直にケインくんの数学的にありえない反則技を楽しむが吉。

 どっぷり楽しめるエンターテイメント系作品としてはなかなかのもの。でも…次回作は…できれば文庫にしてください…(笑)。

:ケン・マクラウド「ニュートンズ・ウェイク」
 21世紀後半に超知性を獲得したAIが、当時ネットワークに接続していた人類の精神の大半をアップロードしたままどこかへと消失してしまった「強制昇天」から300年後、生き残った人類は、当時の超科学文明の遺産を発掘しながら文明を再建しつつある。そのような中、ワームホールを管理することで益を上げている人類勢力の中の一つ、カーライル家の実戦考古学調査隊が、当時の遺産の調査のため、ワームホール経由で惑星エウリュディケに到達した。しかし…。

 最近立て続けに英国SFをリリースしてるハヤカワSF文庫の新顔、ケン・マクラウド。かのJ・P・ホーガンも元はエゲレス人だったと記憶してますが、最近の英国人SFのワタシ内星取表はといえば、『啓示空間』のアレステア・レナルズが大黒星(もう『カズムシティ』なんて買わないよ(涙)!)、『シンギュラリティ・スカイ』のチャールズ・ストロスが大白星といった具合で現在絶賛相殺中。で、このケン・マクラウドなんだけど…うーむ、裏表紙のあらすじでは、話がどういう方向に転がってくのかいまいち見えてこない…不安だ。まぁハヤカワSFの裏表紙のあらすじは、ホントに物語冒頭部分しかあらすじ書かないことで有名なので(笑)現時点でそれを言うのは酷か…。というわけで、とりあえず読んでみるわたくし…

 …で、結局最後まで、話がどっちに転がってくかなど分かった試しがなかったわたくし(笑)。いやこれは悪い意味で。なんかぽんぽん設定だの活躍の舞台だのが繰り出されるんですが、肝心のストーリー展開が、一見でたらめなようでいて実は何か最後まで一本筋の通った最終ラインに収束しようとしてるのか、はたまた単に行き当たりばったりで進んでるのかが、読んでる間ずーっと気になりすぎて純粋に楽しめなかったよう…。おかげで、ラストも話が何か取って付けたように収束したように感じられてアレですよ。ううう。ただ、その状態がこの倍の厚さずーっと継続してたアレステア・レナルズよりは兆倍マシ(笑)。つるべ打ちな個々の設定自体はなかなか面白いのよね…。つまるところ、この本が楽しめるかどうかは、個々の設定自体をどれくらい楽しめるかに係ってるような気がするです。そんな「ストーリーはどうでもいいからキャラに萌えとけ」的ギャルゲーに対するような感想をッ!? あんまりだ(笑)。

 ところで、『啓示空間』のときもそうだったけど、オビの堺三保の惹句はいくらなんでもアオリすぎだと思うんだ…。それとも、世間的にはこの作品はもう大絶賛で、ずれてるのはワタシだけ、というオチなんだろうか。はうあう。で、ワタシ個人の感想は…「どちらかといえば面白い」と言ったところで。なにその微妙極まりない落としどころ…。

:チャールズ・ストロス「シンギュラリティ・スカイ」
 新共和国の辺境惑星、ロヒャルツ・ワールドにある日、携帯電話の雨が降り注いだ。「もしもし。わたしたちを楽しませてくれますか?」…携帯電話から聞こえてきた声は、ロヒャルツ・ワールドの住人が提供する話を何でも聞き、その対価に、なんでも与え始めた。お金、食べ物、家…果てはそれらの物質を何でも一から合成可能なコルヌコピア・マシンまで。夢が何でもかなう世界と化したロヒャルツ・ワールドはたちまち混乱の極みに。ロヒャルツ・ワールドに、フェスティヴァルが来襲したのだ。
 ……21世紀なかごろに突如として出現した超AI・エシャトンによって、人類の9割が各星系へと即時転移により強制移住させられてからはや2世紀。超光速航行・超光速通信を確立した人類は、各強制移住先の星系との接触を再構築しつつあったが、ロヒャルツ・ワールド属する新共和国は、19世紀の東欧を髣髴とさせる遅れた世界だった。にもかかわらず、新共和国皇帝は、虎の子の帝国宙軍巡洋戦艦<ロード・ヴァネク>を含む攻撃艦隊をフェスティヴァル迎撃に向かわせる。しかも、エシャトンが絶対の禁忌とする因果律侵犯兵装の使用を伴うオメガ作戦に則って!因果律侵犯を濫用せぬよう監視するために乗り込んだ地球国連のエージェント・レイチェル、巡洋戦艦の超光速機関アップグレードのために雇われた地球人技師・マーティンを乗せて、<ロード・ヴァネク>は出航する。新共和国のフェスティヴァル迎撃の結末やいかに?

 これは面白い!

 ああ、なんつうか、めちゃくちゃ久しぶりに、書いたの有名どころじゃないけど素直な意味で「面白い!」と言えるハヤカワ文庫SF読んだ気分だよ(笑)!もう最近のハヤカワったら、名の知れた作家以外は、ディーツとかディーツとかディーツとかの箸にも棒にもかからない凡作とか、レナルズとかレナルズとかレナルズとかの分厚さだけがウリの凡作とかばっかりだったような気がするけど、チャールズ・ストロス、君はここにいてもイイ!超わし好みだ(笑)!とりあえず、因果律侵犯兵器という言葉の響きだけでご飯3杯は固いデス。しかも因果律侵犯兵器を使用した瞬間に超AIにより天罰覿面!という時点で1週間は飲まず喰わずで生きていけそうデス。因果律侵犯兵器というのはアレだ、タイムマシン使って過去を改ざんして歴史を変える、とかその類のアレだ。言うなれば、核爆弾なら何百発炸裂させようが知ったこっちゃないが、ジョン・コナーがレジスタンスのリーダーになる前に抹殺しようと過去にターミネーターを送り込んだり、発言力貯めまくって陳情したナル・エリンコゲート空間追跡機を「お前の存在した事実そのものを消してやるぜフゥーハハハァー」とか言いながら戦場でぶっ放した瞬間、エシャトンにより月サイズの小惑星が地表に落着して地球ごと滅亡。素敵すぎる。とまあこんなのがワタシの超AIエシャトンに対する理解なんですがどうでしょうか。いやどうでしょうかといわれても。

 …まあそれはさておくにしても(おくんかい)、とりあえず、語り口自体のふしぶしにユーモアが効かせられる作家はそれだけで評価が甘くなるわたくし(笑)。だが、それを差っぴいても、このストロスさんはなかなか上手いでございますですよ。ガジェットを取っても、個々の要素だけならそれほど極端に新鮮味があるネタというわけでもないけど、使い方のちゃんとあるべきツボは押さえてくれるので、読んでて「ん?」とか詰まったりしなさらさら具合(でも、「光円錐」という言葉をこの作品で初めて知ったわたくしはハードSF好きとか言っちゃいけないような気がしてきた。しくしく)。お話のほうも、フェスティヴァル下のロヒャルツ・ワールドを適度に織り交ぜつつ、<ロード・ヴァネク>の軍事作戦ありの、その水面下でうごめく陰謀ありので飽きさせません。でも別にややこしいストーリーではないので夜も安心。何より、一粒で何度もおいしい的な要素の突っ込みっぷりが嬉しい。ハードSF的な描写があるかと思えば、軍事行動の描写は何この潜水艦モノ軍事小説、てなあんばいだし、かと思えば、フェスティバル下のロヒャルツ・ワールドの描写は、その舞台設定と相まって、SFっちゅうよりシュールな童話みたい。それでいて、それらがちゃんと全部かっちりとまとまった上に、しっかりエピローグも締めてくれるので大したもの。フェスティヴァルっちゅうか、アンタの作品がフェスティヴァルだよチャールズ・ストロス(笑)!

 つまるところ、良質の、古くて新しいスペースオペラ、といったところ。前衛的な作品も結構だけれど、もっとこういう、手堅くまとまってて楽しみやすい作品も増えてもいいとおもうんだ…。何にせよ、楽しみな作家がまた一人増えたなぁ、チャールズ・ストロス。おすすめです。

:マイクル・スワンウィック「グリュフォンの卵」
 「1999年から2004年にかけてヒューゴー賞をたてつづけに受賞!いま最も注目されるSF作家の名品の数々をご堪能あれ!」…というオビがついてたこの本。マイクル・スワンウィック?確か昔に何ぞ長編が一つ出て、それきり名前はご無沙汰だったなぁ…。そうかいつの間にそんな大物に。ワタシが知らなかっただけとか言わない(笑)。そんなわけでとりあえず購入。ワタシの脳内センサーは「いやこういうのは大抵レベル高いけど良くも悪くも無難な作品だって!」とか申していたのだけれど…。

 …で、読み終えた感想は、やっぱり「レベル高いけど良くも悪くも無難な作品」なのだった(笑)。色眼鏡かかってませんかわし。でも正直な感想なので仕方がない。つうか、ワタシがちょっと苦手な、人物の心理描写とかに重きを置いたSFでございましたですね…。そういう場合、SF作品だと何故か、逆に感情移入しづらくなっちゃうわたくし。表題作『グリュフォンの卵』読んで、「長いよ!つうか話をどこに持っていきたいのか全然わかんないよ!言いたいことは3行にまとめろ!」とか思っちゃったワタシはたぶんこの作品を読む資格がないのでしょう(笑)。むむう。
 そんなワタシのお気に入りは、宮崎駿アニメ版ホームズみたいな犬と詐欺師の男が活躍する『犬はワンワンと言った』とかになってしまうのであった。嗜好分かりやすすぎるぞわし。でも、無難だの何だの言いながら、幸福感を増幅するインプラントを埋め込まれた人々が暮らす宇宙コロニーでの、道化師のたった一人の反乱を描いた『ウォールデン・スリー』はかなりのお気に入りだったりする。そして『ウォールデン・スリー』は、この本の収録策の中で唯一、名だたる賞の候補作でも受賞作でもないという事実。わしはもうだめだー(笑)!

 …いや、出来は悪くないですよホント。完成度の高いモノがお好みなアナタにどうぞ。

:デイヴィッド・マレル「廃墟ホテル」
 クリーパー。それは廃墟の魅力に取り付かれ、今は打ち捨てられた建造物の中へと忍び込む人々のことである。新聞記者バレンジャーは、大学教授コンクリンとその元教え子たちからなるクリーパーのチームに取材と称して同行した。目標は、今は寂れた元リゾート地・アズベリーパークに建つ、マヤのピラミッドを模した豪華ホテル、パラゴン・ホテルの成れの果て。ホテルに侵入した彼らは、畸形のネズミやネコに遭遇したりしつつも奥深くへと進み続ける。だがホテルの保存状態は良好だがおかしかった。このホテルは、各部屋でかつて起きた殺人や虐待の痕跡を保存したまま閉鎖されていた。オーナーだった大富豪カーライルは、秘密の通路からそれらの客室を覗いていたのだ。その異常な光景に戸惑う彼らの背後から、怪しい影が、そしてパラゴン・ホテルの歴史そのものが襲い掛かってくる…。

 というわけで、前回の『トーテム [完全版]』ですっかり味を占めてしまったデイヴィッド・マレルの作品。この作品が発刊された当時、まだマレルには興味なかったけど「そういや少し前にマレルの作品出てたよなぁ」とか覚えてたわしえらいえらい。つうか、ワタシのマレル初体験は確か創元から出てるホラーアンソロジー『999』だったかと記憶してるんだけど、その当時はそんなに飛びぬけてるとは思わなかったんだよなぁ。まああの時のワタシはスーパーナチュラル求めて読んでたのでサイコ方面はそれほど興味なかったし。だったよな?『リオ・グランテ・ゴシック』。それに、短編ではぱっとしなくても長編面白いなんて結構ある…いや、あんまりないか…。逆は結構ありそうなんだけど。なぁトマス・F・モンテルオーニ(笑)。『聖なる血』で評価ダダ上がりして、その続編『破滅の使徒』にてそれに倍する勢いで評価ダダ下がりしたモンテルオーニだけど、『999 〜狂犬の夏〜』に収録されていた短編『リハーサル』は傑作だったよ…。うぐう。
 …遂に本の感想でも話題がランドスライドし始めたので(笑)元に戻しますが、この『廃墟ホテル』もこれはこれでかなりの面白さ。先の『トーテム』では真綿で首を絞めるようなじわじわとした緊張感の高まり具合が白眉だったのだけれど、こっちは打って変わって、畳み掛けるような展開がウリ。アクション的な意味だけでなく、意表を突く展開という意味でも。まるで何かの映画のノヴェライズのようですが、駄目ノヴェライズに特有のあの中身の薄さはもちろん感じません。廃墟ホテルという、あちこち朽ちている閉鎖空間、いかにも何かが潜んでいそうな不気味な閉鎖空間という舞台を上手く生かしてるなぁマレル。人物描写もテンポ身上のエンターテイメント作品にしては堂に入ったもの…だけど、主人公のバリンジャーに対するマレルの手厚いキャラ付けっぷりはダウト一歩手前(笑)。アナタ一体どれだけ辛い過去背負うんデスカ。まああくまでダウト一歩手前であって、ダウトになってないところがさすがマレルと言ったところなのでせうか。ぷう。

 廃墟特有の危機一髪あり、謎の襲撃者との丁々発止のやりとりありの閉鎖空間冒険小説(なんじゃそりゃ)の佳作。ああ、マレルは本当にイイかもしれん…。

:デイヴィッド・マレル「トーテム [完全版]」
 山あいの地方都市、ポッターズフィールド。郊外には牧草地が広がり、街中は辺鄙ではなく開けてはいるが古めかしさも残る、よくある田舎だったはずのこの街で、何かが少しずつおかしくなり始めていた。放牧されていた雄牛が腹を引き裂かれて殺された。郊外の野原で、男が雄牛と同じように引き裂かれて殺された。牧場を営む一家が忽然と消えた。連続する怪事件に翻弄される警察署長スローターだが、事態は加速度的にパニックと崩壊の度を深めていく。理性を失い、野獣のように変貌した少年を皮切りに、街は次第に戦場のようになっていく。原因は、かつて街の住人たちと衝突し、ポッターズフィールドの山奥に引き篭もったヒッピーたちのコミューン跡の廃墟にあるのか?恐るべき夜が始まった…。

 普通の人たちにはたぶん、映画『ランボー』の原作者だと言ったほうが通りがよさそうな気がするデイヴィッド・マレルの新作…というか、今回「完全版」と謳うからには、昔一回刊行されてたっぽいですね。巻末の解説を見るに、昔のはどちらかというのジェットコースター型エンターテイメントだった模様。まあそっちの方は知らないのでワタシには関係ないけどな!うわーん!(←実はそっちも読みたかった模様)
 で、今回の完全版ですが、いや、面白いよこれ。この小説で特筆すべきなのは、細かい描写を積み重ねて、後に繰り広げられる惨劇の予兆を少しずつ感じさせるその手際。この類の作品だと、最初に一発どかーんと大きなネタをぶち上げておいて、後はその勢いで引っ張る、という展開が多いけれど、しかるにこの『トーテム』と来たら、じわじわ、じわじわと、真綿で首を絞めるように描写に描写を重ねて緊張感が高まっていく。上巻なんかほとんどそんな感じなんだけど、ヘタな作品よりよっぽどぐいぐい引き込まれる。怖いよ少年怖いよ!緊張感高めすぎて最後が駆け足気味のような気もするが気にしてはいけない(笑)。この作品はその過程こそがキモなのだ。あと、設定超自然ホラーっぽいのに何故背表紙は灰色ちゃうん?という疑問も、最後まで読めばああなるほどと納得。つうか、こういうネタでも描写次第でここまで不気味なテイストにできるものなのか…。

 何はともあれ、ホラー風味冒険小説としてはなかなかのもの。一読の価値アリ。

:ジョン・コリアー他「怪奇小説傑作集2 英米編II」
 創元で刊行されていた怪奇小説短編集が、装いも新たに復活してたので購入したわたくし。実はその昔、表紙が変わる前に、『怪奇小説傑作集1 英米編I』は買ってたわたくし。偉大なHPL(ラヴクラフト)が『ダニッチの怪』の中で一瞬言及していた、アーサー・マッケン『パンの大神』が読みたくて買ったのですよ。だが、当時はちゃんと読んだのに、現在では困ったことに、内容すらほとんど覚えていないわたくし。えーと、脳をいじられた娘っ子が森に行ったらパンの大神にやられて(何をだ)戻ってきた話?なんだその覚えてるんだか覚えてないんだかさっぱりぷうな微妙な記憶具合は。つうか言葉選べわし。駄目じゃないか(涙)!いや、当時まだもののわびさびの分かってない年齢だったこともあるけど、やっぱり収録作家のラインナップ(マッケンとかブラックウッドとかレ・ファニュとか)とかが、ワタシの好みに対してビミョーに古すぎたのですよ、やっぱり…。
 というわけで、当時はそれ以降続刊を買うこともなく以後放置だったんですが、今回リニューアルを機に、何かの気の迷いで(笑)続刊を買ってみた次第。でで、読んでみたんですが…

 あれ、面白いじゃないか!

 作家的にも1巻のそれよりも新しめのヒトタチを揃えてるらしいけど、そのせいか、今回はどれもこれも水準以上のデキ。荒れた離れ小島にピクニックに行った語り手たちの顛末を綴ったL・P・ハートリイ『ポドロ島』とか、オーソドックスな幽霊譚に捻りを効かせてて印象深いE・M・デラフィールド『帰ってきたソフィ・メイスン』とか、古い時代にはなかった技が効いてて良。タイトルそのままな上にこのオチはどうなんだと微妙に思わないでもないフレデリック・マリヤットの『人狼』も、吹雪に閉ざされた山中に潜む親子の周りで起きる怪異の描写…というより環境そのものの描写が妙に効果的で忘れられません。一種マッドサイエンティストものっぽいけど、どっちかっていうとマッド悪徳芸術家ものっぽい(なんだそのジャンル分けは)サックス・ローマー『チェリピアン』もよいですね。他の作品もどれもこれもなかなか。空気読んでないのは、ラストで冬山怪異にむりやりありきたりな解説をやらかして色々ぶち壊しな(笑)S・H・アダムス『テーブルを前にした死体』くらいですね。これだからアメリカじんは。もぅ。

 そんなこんなで、最近のモダンホラーほど近代でもなく、ゴシックホラーほど古びてもいない中庸路線をお求めのアナタに。結構おすすめ。

:ブライアン・ラムレイ「地を穿つ魔」
 霊能力を持つ隠秘学者タイタス・クロウと、その親友ド・マリニー。彼らは、不可解な失踪を遂げた考古学者とその甥の手記を調べるうち、昨今ヨーロッパ各地で頻発する地震の裏に、邪神の眷属の存在を確信する。だが、その時既に、邪神の眷属たちの手はタイタスたちに迫っていたのだった。タイタスは邪神に対抗する秘密組織ウィルマース・ファウンデーションと手を組み、眷属どもとの対決に立ち上がった!

 …とまあ、何とはなしに公式のあらすじをおおよそなぞってみるわたくし。タイタス・クロウといえば、『斬魔大聖デモンベイン』の主人公・大十字九郎の名前の元ネタにもなった怪奇探偵。前作『タイタス・クロウの事件簿』では、神話体系の雰囲気を壊し過ぎない程度に活躍するタイタス・クロウの姿(最後は何か旧神みたいになってましたが)に好もしいものを感じていたりもしたのであった。そもそも創元のラヴクラフト全集や、青心社のクトゥルーシリーズも完結してしまった今、クトゥルーがらみの作品が世に出てくる機会もめっきり減るであろうし、それを抜きにしても、この新シリーズの展開は今後が期待できそうなので、わたしゃ大変楽しみにしていたのであった。で、このたび読んでみた次第。で、感想。

 タイタスとマリニーが
 ビッグワンに出番を喰われた
 ジャッカー電撃隊みたいになっとるー!?

 …この作品、途中まではタイタス・クロウとド・マリニーが邪神の眷属相手に頑張ろうと苦闘していて期待通りだったんですが、途中で出てきたウィンゲート・ピースリー教授が「タイタス&マリニー。邪神相手に頑張ってるようだな。ただし!その腕前は世界じゃあ二番目だ」「なに!?じゃあ世界一は誰だ!?」「(ヒュ〜、チッチッチ)」みたいな具合(どんな具合だソレ)にいきなり出てきておいしい所を全部持っていく、という、ステキに斜め上方向にかっ飛んでいく体たらくなのだった。以後、タイタスとマリニー、ウィルマース・ファンデーションのパシリ化。終了。マジか(涙)!パシリはいいけど、一体いつ話が展開するんだろうと思いつつ読んでいたら、いつの間にかに読了していたわたくし。あれ、ワタシいつこの本読み終えたっけ…。マジか。

 …とりあえず、このシリーズの評価は次の作品まで保留しますデスよ。次の転び方向で全てが決まりそうな予感。でも次もタイタスがパシってたら泣くぞ。割と本気で。




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