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祈りの海
 
グレッグ・イーガン
『祈りの海』
山岸 真 訳
ハヤカワ文庫SF1337
ISBN4-15-011337-8
840円

グレッグ・イーガン
の作品

『宇宙消失』
『順列都市』
『祈りの海』


『祈りの海』

 表題作『祈りの海』を始めとして、短篇を計11篇収録した、グレッグ・イーガンの日本版オリジナル短篇集。初期の作品から最近の作品まで、これさえ読めばイーガンいまむかしが概観できるお得な短篇集です。たぶん(笑)。

 しかしまぁ、いやホント面白いわこれ。『宇宙消失』『順列都市』とかのイーガンの長編の場合、アイデア炸裂の影で、ともすれば物語が中だるみしがちな部分もあったけど、短篇だとアイデアと物語のバランスがちょうどいい具合に取れてて安心して読めますですね。それどころか、一つ一つの短篇に容赦なくそれだけで長編書けそうなアイデアを突っ込んでくるオーストラリアのイケてるSF作家イーガン。すげぇ。

 この短篇集でお気に入りの作品を挙げろ、って言われると大半の作品がそれに該当してしまうので難しいッス。とりあえず、一番最初の『貸金庫』がいきなり、ワタシのハートを一気に鷲掴み。読み始めてちょっとの間、何が書かれているのかわからずに戸惑っていたワタシは、既にイーガンの術中にはまっていたのでしょう。よく考えると割と地味な話なんだけど、主人公の独白を通してなされる緻密な描写と、イーガンらしくもない(笑)ちょっぴり情感あふれるラストが心を捕らえて離さない。人々が、脳の中に自分の意識をバックアップするための「宝石」を入れた世界を描く『ぼくになることを』は…ネタ自体もさることながら、ラストがとてもぞっとさせられるなぁ…。ある意味ホラーよりも怖いかも。

 ワタシの好きな、訳分からんネタで攻めてくる(笑)短篇としては、時を越えた通信をイーガンらしい突飛な理論でごりごりと理由付けしてしまった(誉めてます)『百光年ダイアリー』とか、しばらく自分が何を読んでるのかもよく分からなかった(誉めてるんだってば)『放浪者の軌跡』とか、『宇宙消失』ラストの叩き台みたいな話だけどそれ以前にSドラッグの設定が素敵すぎな、イーガン風ハードボイルド作品『無限の暗殺者』なんてのがあります。一方、真っ当に面白い作品としては、人類共通の祖先を探る試みが全世界規模の混乱を招いた挙句の、意表をつくラストがお気に入りの『ミトコンドリア・イヴ』とか、やっぱり表題作の『祈りの海』とかかなぁ。イーガンさん、着実に小説の腕も上げてきてるみたいです(笑)。個人的には『祈りの海』や『イェユーカ』みたいな、最近書かれたらしいおとなしめの作品よりも、『無限の暗殺者』とか『放浪者の軌跡』とかの、無骨だけどとんがってる(何がだ)作品のほうが好きなんだけどね。

 なにはともあれ、出色の出来な短篇集であることは間違いなし。イーガン入門用としても最適なんじゃなかろか。とにかく、悪いこと言わないから、読んでないなら読むべし!

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