外伝第三章「動き出す心」

アキちゃん‥‥なんだか最近変なの。時々ぼぉっとして‥‥。
この間、夏休みが終わってから暫く、アキちゃん学校に来なかったんだ。
先生が言うには、アキちゃんのお爺さまがこの間突然お亡くなりになったんだって‥‥。
やっぱり‥そのことが原因なのかなぁ‥‥‥。



「‥‥ちゃん!アキちゃん!アキちゃんってばぁ!」

ふと誰かが俺を呼んでいた事に気がつく。ああ、りりたんか‥‥‥

「なんだよ‥りりたんか‥‥うるさいなぁ‥‥」
「もう!なんだじゃないでしょ!さっきからぼうっとして!」
「わりぃ‥‥すこしほっといてくれや‥‥‥」
「アキちゃん‥‥‥」

りりたんは何か言いたそうだ。でも、どこかちょとためらっているようだった。
俺は黙って席を立つ。

なんでだろうな?どうも‥‥変だ‥‥

俺は確かに最近ぼうっとしている事が多くなった気がする。
いつもならみんなと一緒に走り回っている時間なのに‥‥

最近、なんて言ったら良いのか解らないんだけど‥‥
りりたんの元気の良さを見てると‥‥少し、疲れるんだ。
でも、こんなこと‥‥今まで一度も無かったのに‥‥‥。



気がつくと、俺は学校の裏庭に来ていた。
ここには花壇や禽舎小屋がある。小屋の中にはうさぎと小鳥。
うさぎ達は地面に穴を掘って、そこに出たり入ったりしている。
穴から出てきた一匹が鼻をひくひくさせてじっとこっちを見ている。

そういえばりりたんはよくこいつらの世話をしてるんだっけ‥‥‥
この間も、

「あのね。あのね。みいちゃんにね、この間赤ちゃんが生まれたんだよ。
とっても、とってもちっちゃくてかわいいんだよ!」

あのときは俺がちゃんとりりたんの方を向いて話を聞くまで

「ねぇ!ちゃんと聞いてよぉ〜」

ってしつこく言ってきたんだっけ。

「みいちゃん」ってのは兎にりりたんが勝手につけた名前だ。
で結局俺が根負けして話を聞いてやったら、あいつ、すっごく嬉しそうに話してたっけ‥‥。

ここのうさぎは白いものやら黒いもの、白黒のもいれば茶色のもいる。
ただ、結構数がいるから似た模様の奴もいる訳で、そいつらなんかは俺には見分けがつかない。
しっかし、どれがみいちゃんなんだか‥‥今度、特徴を詳しく聞いておこうかな。

俺は花壇の側の腰掛けに座った。

(しゃー‥‥)

?‥‥水の流れる音がする。
ふと後ろの花壇を見るとそこには一人の女の子がいて花壇の花に水をやっていた。
いつのまに来たんだろう? 確か俺がここに来たときには誰もいなかったよな‥‥。
うーん‥‥俺って本当に最近どうかしてるよなぁ‥‥確かにぼーっとしすぎだ。
こりゃ、りりたんに何か言われてもしょうがないよなぁ‥‥。

俺は少しだけ反省してその子に眼をやった。

(あれ?誰だろう、この娘?)

柏木小学校はこの辺りでは結構大きい小学校だ。
とはいえ、最近、僕らぐらいの年の子が減ってきたから、
そんなにたくさん小学生がいるわけでもない。
それに、俺は結構いろんな奴といっしょに遊ぶ方だから、
俺が「みかけない子」だなんて感じるのはちょっと珍しいんだ。

ちょっと興味を引かれた俺はその子をよーく見てみる。
うーん。黙って女の子観察するなんて、俺ってちょちおやじ入ってるかも‥‥(泣)

その子は黒髪のショートカットの女の子だった。
そんなに目立つ子って感じの子ではない。
どっちかって言うと華奢っていうのか‥‥どこか頼りなさを感じる子だった。

俺の周りにいる娘ってさ、ほら、綾音川でもそうなんだけど、
なんていうか、そう、結構独特の雰囲気を持ってる奴が多いんだよな。
独特の雰囲気ってのは、そう、なんて言ったら良いのかな?
どこかマイペースと言うか‥‥「安定してる」とでも言ったら良いのか‥‥
うーん、りりたんなんかその典型例かもな(笑)

でも、その子はどこか違った‥‥。

女の子の髪の毛が移動するたびにさらさらっと揺れる‥‥
花壇の花に一人で水をやる姿は、もしも、もしも俺が目を離したとしたら、
いつのまにか「すうっ」て後ろの風景の中に消えてしまいそうで‥‥。

俺はすっと立ち上がると女の子に近づいた。女の子はまだ俺に気がついていないようだ。

「水‥‥あげてるんだ。」
「きゃっ」

女の子は後ろから突然声をかけられたのにびっくりして持っていたじょうろを落としてしまった。

「あっ、ご、ごめん。」
「い、いえ。ごめんなさい。あっ、お水、かかっちゃった。」

気がつくと女の子の落っことしたじょうろから跳ねた水が俺のズボンにかかっていた。
女の子はポケットからハンカチを取り出すと俺のズボンに跳ねた水をふこうとする。

「いいって、いいって。ところでいつも君が花に水をやってるの?」
「うん。」

女の子はまだちょっと俺の足元を気にしながらも、嬉しそうにそう答えた。

「綺麗でしょ、この子たち。」

あれ?この子‥‥。

その子は花壇の花の事を嬉しそうに話しはじめた。
花の事を話しはじめると彼女は急に生き生きしだした。さっきまでとは全然ちがう。
丁度、モノクロで色褪せた昔の写真が急に現実のの風景と入れ替わったみたいに‥‥

へー、この子ってさっきまでと全然感じが違うなぁ‥‥。

うれしそうに花壇の花の事を話す彼女は、結構表情豊かだった。
大きな目を輝かせて、まるで呼吸をするのも忘れるかのように俺に、
「この花はね‥‥」と言いながら花壇の花について説明してくれる。


もう‥‥アキちゃんったらどこ行っちゃったの‥‥。

私はアキちゃんを探して校舎の中をさまよっていた。

「はぁ、私、アキちゃん怒らせちゃったのかなぁ‥‥」

最近のアキちゃん、全然元気がなかったから元気づけようとしたんだけど‥‥
なんだかうまくいかない‥‥。

(わりぃ‥‥すこしほっといてくれや‥‥‥)

さっきのアキちゃんの言葉を思い出す。
アキちゃん‥‥でもね、私‥‥やっぱりほっとけないんだよ‥‥
そんなアキちゃんを見てると‥‥私、とても、胸が苦しくなるの‥‥

そんなことを考えているうちに私は校舎の裏庭へ続く細い道のあたりまでやって来ていた。
ここにも居なかったら‥‥アキちゃん、もしかして、もう教室に戻っちゃってるのかな‥‥

私は足を進める。すると誰かの声が聞こえた。

(この声?アキちゃん?)

私の足は自然に早くなっていた。路地を抜けた校舎の裏庭には
花壇があって、近くにはうさちゃん達もいる。

あ、アキちゃんがいる。でも‥‥私はそこである光景をみたんだ。

「えっ、あの子‥‥誰?」



彼女はひとしきり話をすると

「あっ、いっけない。もう時間だ!」

といって立ち上がった。そうか、もう休憩時間終わりだっけ‥‥。
俺は女の子に言う。

「ところで、君‥‥名前‥‥なんて言うの?」

俺はその子を呼び止めようとしたんだ。そしたらそこで初めて
俺はその女の子の名前を聞くのを忘れていた事に気がついた。

「私? 私、水原 夕美。ゆみでいいよ。」

彼女はそういって走っていった。



‥‥‥アキちゃん‥‥楽しそうだったな‥‥。

アキちゃんのとなりには見たことのない女の子がいた。
おかっぱ頭の可愛い女の子‥‥‥アキちゃんはその子ととっても楽しそうにお話してた。

私はとぼとぼと歩きながらそんなことを考える。

そういえば、私、最近、アキちゃんがあんな風に笑うの‥‥見てなかったな‥‥

何故かはわからないけど、その時、私は声をかけそびれてしまった。
私はなんだかとっても悪い事をしているみたいな気がして‥‥その場を去った。



その日の昼も俺は裏庭にいた。

(今日はどうしたんだろ?りりたんのやつ‥‥)



昨日、俺は水原と別れたあと、俺は、俺の中にあったもやもやが消えている事に気がついた。

(やっぱり、俺、最近どうかしてたよな。)

最近の俺はなんだか気分が晴れなかった。
そうやらりりたんもそのことに気がついていたらしく、いつもよりたくさん俺に話かけてきてた。
でも、俺、りりたんに「ほっといてくれよ‥‥」なんて言っちまった。

でも、俺、そのことを水原と別れてから教室に帰る途中を後悔したんだ。
だって、せっかくあいつなりに俺の事心配してくれてたのに、俺は邪険に扱っちまったんだぜ。
はぁ、悪い事したなぁ‥‥‥あやまっとこ。

そう思って教室に戻るとりりたんは既に自分の席についていた。
俺はりりたんの近くに行くってさっきの事あやまろうとしたんだ。

「あ、あのさ、りりたん。さっきは、その‥‥‥」

りりたんはなんだかぼーっとしていたようだった。
‥‥なんだよ、さっきはおまえが俺の事ぼうっとしてるって言ったくせに。

「えっ、きゃっ。誰?あ、あ、あ、アキちゃん?? 何、なに?なに、なに?」

こ、コイツ、俺が目の前に来てたのにも気がつかなかったのかよ‥‥(汗)
りりたんはびっくりしている。しっかし、まぁ、なんて分かりやすい奴だ。
まったく、そんなに驚かれるとこっちの方がびっくりするじゃないか。
俺は少し恥ずかしいのを我慢して言ったんだ。

「‥‥その‥‥さっきはごめんな。そ、その、気ぃつかってくれてたんだろ。」
「え、え、え、いいよ、いいよ。なんだか‥その‥アキちゃん元気になったみたいだし‥
え、えへへへへへ」

??なんだ?その奥歯にものが挟まったような言い方は?
気のせいかも知れないけど、なんだかその笑い方‥‥変だぞ‥‥?

まぁ、いいっか。こいつ、どっか変なとこあるし‥‥。

その日はそのあと何事もなく過ぎていったのだが‥‥
翌日‥つまり今日だ。いつも通りりりたんの家の前を通ると‥‥

あれ?いつもだったらあいつが丁度家から飛び出してくる頃なんだが‥‥‥
きゅっ、俺は自転車を止める。
じぃーーーー
おかしい、そろそろ出てきてもいい頃なのに‥‥‥

再び、じぃーーーーーー

(数分後)

おっかしいなぁ。やっぱり出てこない。俺は神社の階段を駆け登ると境内の裏に回る。
りりたんの家はこっちが入り口なんだ。
呼び鈴を鳴らすと「はーい」という声とともにりりたんの母さんがやってくる。

「あら、アキちゃん。おはよう。どうしたの?」
「あっ、おはようございます。あのぉ、りりたんは?」
「あら? あの子、もう出かけたわよ。
なんだか今日は出かけるのが早かったんだけど‥‥
アキ君と一緒じゃなかったのね。」

へ? もう出かけた?どういう事だろう?
なにか今日、早く出かけないといけない行事ってあったっけか?

「そういえばアキ君‥‥大丈夫なの?時間?」
「はぁ、時間‥‥‥げげっ、うわぁ!! しまったぁぁあああ!」

次の瞬間、俺は音速の壁を越える様なダッシュをかけていた。

「やばい!ち、遅刻だぁ〜〜!」

俺の悲鳴が聞こえなくなった頃、ぽつんと一人取り残された
美晴は言った。

「あの子達‥‥もう、気がついているのかしら‥‥
ちゃんと乗り越えてくれると信じるしかないのだけれど‥‥」

その表情はどこか悲しかった‥‥。


そのあと、俺は先生に怒られた。

(はぁ〜〜なんかなぁ〜〜〜。)

ちらっとりりたんの方を見る。やっぱり今日もぼうっとしてる‥‥
休憩時間に俺はりりたんの所に行った。いつもはあいつの方がこっちにくるんだから
そういうのって珍しい。

「おーい、りりたーん。」

目の前で手をふってみる。
ぼーーーー。
げ、反応が無い‥。

「入ってますかぁ〜〜」

俺はりりたんの頭を軽くこんこんとたたいてみる。

やっぱり反応が無い。
こ、こいつ‥‥
もっとりりたんの顔に顔を近づけて、すぐ側で言ってやる。

「こらっ!」
「はへっ?きゃっ。」

なんだ?その反応は‥‥まったく‥‥。
りりたんは間近に迫る俺の顔に気がつくと、見る見る顔が赤くなる。
そして次の瞬間、思い出したように「ばっ」と飛びのいた。

‥‥‥そんな‥‥飛びのくことないだろーが‥‥大体、俺、何かやったか?

でも、あいつが変なのはそれだけじゃなかったんだ。
あいつ、今日はずーっと俺と話す時、どっかぎこちなかったんだよなぁ‥‥‥



んで、結局、俺はなんだか居心地わるくなって今日もここにいるって訳さ‥‥‥

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