外伝 | 第6章「凍り付く闇の中で」 |
12月22日 午前6時30分:
(チュンチュン‥‥チチチ‥‥)
ふぁあ‥はぁ、もう朝か‥‥ってなんだ?すごく寒いぞっ!
どうやら俺は寝ている間に布団を蹴り飛ばしていたようだ。
ベッドの下には妙な形でおっこちている布団がある。
しかし、それでも今朝は寒すぎる‥‥
そう思って俺が外を見ると、景色はすっかり一変していた。
白銀の世界。
昨日、雪が降ったらしい‥‥そして、空にはきれいな青空が広がっていた。
俺とりりたんがうさぎを埋葬したあの日以来、ずっと曇り空が続いていたのだ。
それが今日は嘘みたいに晴れ上がっていた。
あたりをつつむ静寂。まるで雪が全ての音を吸い込んでしまったみたいだ。
積もった雪はすこしづつ溶けてゆく。
屋根の雪は太陽の光を反射させてきらきら光っていた。
今日は終業式、明日からは冬休みだ。
俺は珍しく布団からすぐに出ると着替えはじめた。
こんなに雪が積もっている日に寝ているなんてもったいないじゃないか!
12月22日 午前8時20分:
学校へ向かう。俺は途中で柏木神社に通りかかった。
雪も道路ではそんなに積もらない。俺は自転車をこぐペダルに力を入れる。
でも、気をつけないといけないのは‥‥
(!)
げ‥りりたんがいきなり飛び出してきた。
自転車の両輪のブレーキをフルにかける。
やばいっ!今日は地面がぁーー
後輪が横滑りをはじめる。やべっ!
俺はとっさに600万ドルかけて改造された俺の黄金の足(嘘)で
伝説の「足ブレーキ」をかけた!
つるん。
へ?
突き出した俺の右足はものの見事に地面を滑っていた。
とっさに体を後ろに引いて俺をよけるりりたん‥‥こ、こいつは‥‥
‥‥次の瞬間俺は自転車のハンドルを放して最悪のパターンを避けていた。
バランスを失い地面を回転しながら滑っていく俺の自転車。おいおい‥。
‥‥ずるずるずるずる、きゅるるるるん。ごしゃ。
「きゃっ、もうっ、あぶないなぁ〜!」
(怒)‥‥おいおい、あぶないのはどっちだよ。
いつものパターンだが‥どうにかならないのか?
通りかかるのが俺だから良いものの、いつか怪我するぞ‥‥。
そんなことを俺が考えていると、いつのまにかりりたんは
自転車を起こして持ってきていた。
「はい、アキちゃん、気を付けないとだめだよ。」
‥‥‥。
‥‥。
まぁ、いいや‥‥俺が自転車に乗りなおして出発しようとすると、
(むにっ)
何故か俺のモノではない手が俺の腰のあたりに回っていた。
そう、りりたんは俺の後ろにちゃっかり乗っていたのだ。
「さぁ、しゅっぱつぅ〜〜!」
‥‥‥。
‥‥。
(コ、コイツ‥まさか俺を止めるためにわざと飛び出してるんじゃ‥‥(汗))
ま、まさかな‥‥こいつにそんな芸当ができるはずが‥‥あるかも‥‥。
「ねぇ、アキちゃん‥‥あのね」
「な、なんだよ?」
「時間。」
「げっ!!」
‥‥と、ともかく、俺は遅刻しないために自転車を発進させた。
12月22日 午前11時40分:
やっと終業式が終わった。
配られた山のような量の冬休みの宿題をカバンにしまう。
どうせ、こいつらとはこのまま来年の初めまで顔を合わせる事はないだろう。
そうこうしているとハルが来た。
「ねぇアキ君、今年も綾音川さんの所のパーティ行くよね、ね。」
俺達は幼稚園の頃から毎年、綾音川の家で開かれるクリスマスパーティに
招待される。毎年、違うイベントが起こるから俺も楽しみにしているんだ。
ただ、俺の知る限り、一番行きたがっているのはこいつのはずだ。
でも、どうもハルは一人で綾音川の家に行くのが恥ずかしくてたまらないらしい。
だから、俺に毎年必ずこんなことを聞いてくるんだ。
「ああ、行くよ。」
そう俺が言うのを聞くと、ハルは嬉しそうな顔になる。
わっかんねぇ奴だな〜。俺の都合なんか関係ないだろうに(笑)。
「よかった。それでね。綾音川さんが他にも来たい人がいたら誘ってねって。」
幼稚園が一緒だった連中はまず全員来るだろうし‥うーん。
誰か居るかな?
そう思ったとき、俺の脳裏に一人の女の子の姿が浮んだ。
12月22日 午後1時10分:
俺は校舎裏にいた。
あの後、水原を探して4年生の教室中を探したが、
俺は水原を見つける事ができなかった。あと水原に会えるとしたらここしかない。
しばらく待つ。でも、さみぃ〜。
そう思った時、俺は後ろに人の気配を感じた。
振り返ると‥そこには‥水原がいた‥‥。
「ふふっ、どうしたの? 驚いた?」
「え、いや、そんなことは、無いけど。そうだ、俺、水原を探していたんだ。」
「私を?」
「うん、24日に友達の家でクリスマスパーティやるんだけど‥‥
‥‥あの‥一緒にこない?‥‥5時からなんだけど‥
‥それとも、何か用事がある‥‥かな?」
俺は何故か言葉が上手く出てこなかった。顔が熱いや、なんでだろ(笑)。
「‥‥うん。ありがとう。行くね。
じゃぁ、24日の夕方‥4時頃に‥待ち合わせ場所はここでいいかな?」
水原はそう言った。
(?)
そう言った水原に俺はどこか違和感を感じていた。どこがって‥言葉には出来ないけど‥
でも、その時の俺はそれがあまり気にならなかったんだ。
「ご、ごめんね、私、今日はこれから大切な用事があるの。じゃぁ、明後日にここで!」
それだけ言うと水原は駆けていった。
12月24日 午後3時50分:
俺は走っていた。
水原に会ううために。
いつもは待ち合わせに遅れたって平気な俺なのに。
そして時計の針は4時を指す。
水原は‥そこにいた。
12月24日 午後6時10分:
「アキト。遅いなぁ〜」
隣でハルちゃんがそうつぶやく。
「アキトさん、どうしたんでしょうか‥‥」
その隣から聞こえてくるのはユウちゃんの声だ。
ユウちゃんのおうちでのパーティはもう始まっていた。
でも、アキちゃんの姿はここにはない‥‥。
今日、昼に私の家にアキちゃんから
「あ、りりたん?
今日は俺、ちょっと学校に寄ってから、綾音川の家に行くから、
わりぃけど先に行ってくれよ。」
って電話があったの。
それだけ言うとアキちゃんはすぐに電話を切っちゃった。
だから、しばらく待ってたらすぐにアキちゃんは来ると思ってた。
でも、30分たっても、一時間たってもアキちゃんは来ない。
嫌な予感がする‥‥。
その時、私の頭の中にひらめくイメージ。
白い花びらの舞うあの光景‥‥。
「ごめんなさい。私、ちょっと見てくる。」
「え、ちょっと、りりたん?」
「見て来るってどこへ行くんですの〜?」
私はそういう二人を後に残して駆け出した。
12月24日 午後7時10分:
「はぁ、はぁ、はぁ。」
私は学校の校門前にいた。辺りは静寂に包まれている。
校舎からはなんの明かりも見えない。全てが止まってしまった世界。
そして私は門をよじ登る。
私の頭の中では無数の白い花びら達が更に激しい舞いを行っていた‥‥。
「よっと!さてっと。」
(!!)
門を超えた私は校庭に人影を見た。
その影は星明かりの中‥‥踊っていた。
軽やかに‥凍てつくような寒さの中、またたく星空の舞台の中。
「彼女」は踊っていた。
(!水原さん!?)
水原さんは校庭の中央で舞っていた。
その表情はここからは良く見えない。でも、その姿はとても楽しそうだった。
軽やかに‥伸び伸びと‥まるで‥
今まで喜びをあらわすのを我慢して溜めていたかのように‥‥。
私は水原さんに近づく。そっと。
すると水原さんがくるりと回ってこちらを見た。
その顔にはいたずらな笑みが浮かんでいる。
頭の奥底でちかちかと警告を発しているモノがいた。
(いけない!)
私は足を止める。私はそれ以上‥水原さんの近くに近寄れなかった。
すると、水原さんは急に悲しそうな顔になり‥急に走り去ってしまった。
水原さんの走り去ったその方向には校舎裏へ通じる細い路地があった。
12月24日 午後7時15分:
気が付くと私は別世界にいた。
春の花々が咲き乱れる広大な世界。そこにはたくさんの蝶も舞っている。
そして所々に点在して光を放つ柱‥‥よくみるとそれは氷の柱だった。
星々が瞬く光の下、その氷の柱達は僅かな光を反射させ、
その光は乱反射し不思議な世界を生み出している。
そう、その光景はあまりに異常な光景だった。
校舎の裏。
そう、そこは校舎の裏「だった」場所。
咲き誇る花の中心‥‥そこには水原さんがいた‥‥。
「ふふふ、いらっしゃい。りりたん、あなたもこっちにきて。」
そういって微笑む水原さんの表情はどこか変‥‥
そう、どことなく変なのだ。
笑っているはず‥‥なのに笑っていない‥。それはまるで蝋人形の微笑み‥。
その瞳に宿る光にはどこか寂しげで、そして明らかな狂気があった。
(も?)
私がそのことの意味に気が付くのにしばらく時間を要した。
それはあまりにも異常な光景だったから‥‥。
水原さんの横にそびえたつ氷の柱‥‥その中には‥‥アキちゃんがいた。
眠っている‥ようにみえる。目を閉じて‥アキちゃんはそこにいた。
「アキちゃん!!どうして?夕美ちゃん。アキちゃんをどうしたの!!」
私がそう言うと夕美ちゃんはにっこりと微笑んでこう言った。
「ふふっ、りりたんもアキちゃんの事知ってるんだね。
今、アキちゃんは少し眠っているんだよ‥、
みんな‥‥いっしょ。お友達になりましょうね。ふふふふふふ。」
おかしい。この子は‥‥私の知っている夕美ちゃんじゃない。
でも、この姿は夕美ちゃん‥。
混乱する私。
その私にゆっくりと近づいてくる夕美ちゃん。
(!)
良く見ると夕美ちゃんの足は動いていない。足は地面から浮いている。
そのまま滑るようにして私に近づいてくる。
あの蝋人形のような笑みを浮かべたまま‥‥。
「さぁ、りりたんもいっしょに遊びましょうよ‥‥ふふふふふ。」
(いけない!)
その時、私の中で舞い踊っていたひらひらの最期の一枚が水面に着く。
その波紋ははじめはゆっくりと‥やがて急速に広がってゆく。
私の中で何かが変わる‥‥急速に訪れる静寂。
夕美ちゃんの指が私に触れようとしたその瞬間、私は強烈な光に包まれていた。