外伝 | 終章「旅立ち」 |
成長した姿の私は一条の光になって突き進む。
そしてそれは私の中に流れ込んきた。情報、それは膨大な量の想いだった。
混濁した‥そしてひどく悲しい色の「それ」が私の中に流れ込んでくる。
それらの奔流が私の中を通過した後‥そこにソレはあった。
漆黒、純粋な、混じるもののない絶対の黒。そんな塊がそこにはあった。
それは力ある純粋なもの。しかし、それは同時に人間が絶対に触れてはならないもの。
「夕美ちゃんを返して‥‥」
私でない私はそれに言う。
(何故だ?この娘は我に力を求めた。我はこの娘の呼びかけに応じたまで。
この娘の望んだものを与えただけ。)
「これが!これが夕美ちゃんが望んだものだって言うの!ふざけないで!」
(ふざけてなどいない。この娘は自己の消失を恐れた。想い出の消失を恐れた。
だから永遠を求めた。好きな者にかこまれ永遠に暮らせるこの世界を。
我は与えるもの。人の望んだものを与えるもの。)
「そんな‥‥夕美ちゃんはこんな世界を望んでなんかいない!!
現に夕美ちゃんは今、苦しんでいるわ!
あなたの力に耐え兼ねた夕美ちゃんの魂は‥‥打ち砕かれ、
ばらばらになってしまっている!」
私は知っていた。さっき光の矢になった時、私を通り抜けていったもの。
それは夕美ちゃんの魂のかけら。夕美ちゃんを構成していたもの達。
そこには全てがあった。夕美ちゃんが今まで抱いていた想いその全てが‥‥
夕美ちゃんは自分の命の光を使い果たしてしまった。
その本体である麻奈美ちゃんから夕美ちゃんが別れて行動するという、そのこと自体が、
元々それほど強くは無かった麻奈美ちゃんの命の光を急速に弱める事になってしまった。
急速に消えゆく意識の中‥麻奈美ちゃんそして夕美ちゃんは、
自己の中で消失して行く大切な想い出達を失う事に恐怖した。
コノママ、ジカンガトマッテシマエバイイノニ‥‥
夕美ちゃん達の最期の願い。
それはあまりにも強烈で‥闇の奥底に眠るソレを呼び覚ましてしまったのだ。
(しかし、それならばおまえはどうするつもりだ?我を消滅させるか?
この世界から追い出すというのか?
ふふふ、人間風情にそんなことが出来るかわからんがな。
しかし、この娘は我の力を失っては生きては生けんのだぞ。)
そういうとソレは私の前に夕美ちゃんの姿を映し出した。
蝋人形の微笑みを貼り付けながら夕美ちゃんは漆黒の空間に浮んでいた。
(どうする。人間の娘よ。そなたはこの娘を助けたくはないのか?)
(どうする。どうする。どうする。)
その時、氷の柱に束縛されたアキちゃんの映像が私の脳裏をよぎった。
そして目の前にいる夕美ちゃん‥その瞳の奥には‥‥。
「‥‥‥あなたを‥‥‥祓います‥‥‥」
私のその声を合図にそれは狂暴な闇の牙を私にむけてきた。
それはあまりにも静かな、そして激しい闘いの始まりだった。
‥‥声が聞こえる。誰かが泣いてる声だ。
聞き覚えのある声。そうだ、りりたんの声だ。
俺は目を開けた。
長い夢を見ていた。
夕美ちゃん、そして彼女に重なるようにして見えていた麻奈美って子の姿。
辺りを花々が埋め尽くす中、そこにりりたんもいた。
りりたんは言った。
「夕美ちゃん、そして麻奈美ちゃん。
私、ううん、アキちゃんも‥‥みんな、みんな、忘れないよ。
今まで生きてきたあなたたちの事。絶対、絶対忘れないよ。
友達だから‥大切なお友達だから‥‥忘れない‥わすれないよ‥‥」
二人は笑っていた。
いつの日か‥きっと‥‥また会えるよね。
そう‥‥言っていた。
もう、水原には逢えない。俺は解ってしまった。でも、不思議と涙は出なかった。
もう、泣かない。俺はあの雪の日‥そう誓った。
泣くのは人一倍、泣き虫なあいつに任せるんだ。
俺はあいつが泣き疲れるまでだまって側にいてやる。
そう‥‥誓ったんだ。
起きると俺はりりたんの元に行く。
「アキちゃん‥‥」
「わかってる‥‥。あいつら、喜んでたぞ‥‥。」
「うん、良かったんだよね。
きっと、きっと、これで良かったんだよね‥‥。ひっぐ、ひっぐ。」
一陣の風が吹いた。俺は空を見上げる。
遠く‥‥吸い込まれそうな闇に包まれた空。
そして舞い降りてきた一つの白い塊。
雪‥だ。あの日と同じ。
そのとき、俺とりりたんの前に二つの光が現れた。
冬の蛍‥‥そんな弱々しい光だった。
「おい、りりたん。あれ、見ろよ。」
「えっ?」
その光は俺とりりたんの近くにすーっと近寄ってきた。
二つはくっついたり離れたりを繰り返しながら、
俺達の周りを螺旋状に飛び回りながら上昇する。
それは、優しい、とても優しい光の舞いだった。
そしてそれは天空まで舞い上がると一つになった。
その瞬間、それは強烈な光を発した。
光の中には水原と麻奈美って女の子がいた。
「ありがとう、そして、さようなら。」
二人はそう言う。すると、俺の横でりりたんは二人を見上げてこう言ったんだ。
「ちがうよ。夕美ちゃん、麻奈美ちゃん。さようならじゃないよ。
『またね。』だよ。」
俺も言う。
「またな。」
二人は顔を輝かせて、そして光の中へと消えていった。
「ねぇ、今日、アキちゃんの家に行っていい?」
「ああ、良いけど。」
中学生になった俺達。とはいえこいつは相変わらず俺の後ろに乗っかって登校している。
先月、俺に妹が出来た。それも一度に2人も(笑)。
待望の女の子の誕生を知った時、しかもそれが双子だと聞いた時の
親父の喜びようといったらなかったぜ‥‥(笑)。
「今日、アキちゃんのお母様病院から帰ってくるんでしょ。私も赤ちゃんみたいよー。
かわいいんだろうなぁ〜。」
「俺が見た時にゃまだ、サルそっくりだったけどな。」
「えー可愛いよー。」
そんなもんかね、よくわからん。まぁ、いいっか。
そのうち俺が妹達の世話を頼まれたらこいつに頼もうかな‥‥
そんなことを思いながら俺は自転車のペダルを踏み込んだ。