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![]() わたし、りりたん!きょうで4さいになったの! とうさまは神社のかんぬしさん!かあさまもとってもやさしいの。 でもね…わたし、ないしょのひみつがあるんだ。 それはね、わたし、じつは「へ・ん・し・ん」できちゃうの! さぁっ、きょうもがんばらなくっちゃ!合言葉は… 「おもてよ、りりた〜ん!」 |
かあさまが、ごくたまに、わたしが寝る時に歌ってくれる歌がある。
さよがなく なぜなくの
おうちにだれもいないから
さよがなく なぜなくの
みんながととさまつれさった
だれもいない おうちのなかで
もりのなかの おうちのなかで
さよはととさまよんでなく
もりのなかに かぼそくひびく
ととさまをよぶ さよのこえ…
そんなとき、わたしはいつもかあさまに言ってるような気がする。かわいそうな歌だねって。さよちゃんがかわいそうだねって。
かあさまのおへんじも、いつもおなじ。あら、ごめんなさいね、りりたん。そう、あんまり楽しい歌ではないものね。そうね…じゃあ、最後に、ねんねんころりよを歌ってあげる…。
でもそのときわたしはもうすっかり眠くなっていて、かあさまの微笑む顔がまぶたでかくれていって、かあさまがおやすみを言う声も遠く聞こえて、そのままぐっすりとおやすみなさい。
でも、その時に最後に見るかあさまの目は、いつもどこか少し寂しげで…。
第1話
「裏山きもだめしツアー」
きょうもたのしい、ようちえん!今日は近所のおじいさんをまねいて、このまちにつたわる「みんかんでんしょう」をきくんだって。で、わたしもアキちゃんも、ハルくんもユウちゃんも、他のみんなも、みんなおとなしく、おへやにおすわりして、さっきからおじいさんの話をずっときいてる。
でも、おじいさん、ちょっと話が長い…。となりでアキちゃんが、あくびしかけてる。わたしはあきちゃんのほっぺをかるくつねった。
(い、いてぇ!なにすんだよ、りりたん!)
(アキちゃん、気持ちはわかるけど、ちゃんときいてないと、おじいさんに悪いよ)
(あくびくらい、いいじゃんかよ…そもそも、このじじいの話が長すぎるのがよくないんだって)
おじいさんは、まだ話しつづけてる。
「…というわけで、このようちえんの裏山の奥には、かつて、いくさに破れてこの地へ落ち延びた武者たちの隠れ里があったといういいつたえがあってのう。大きい裏山じゃけん、武者たちが隠れる場所ぐらい、なんぼでもあったろうて。しかし、最後は結局、時の領主に追討されて、抵抗虚しく滅びてしまったっちゅう話やねん。裏山の頂上にほこらが立ててあるのは、その武者たちの魂を鎮めるためじゃけん」
(だいたいこのじじい、どこの育ちだ?方言ぐちゃぐちゃだぞ?)
「ところでな、ぼっちゃんじょうちゃん。この隠れ里には、こわーいこわーい話があるんじゃ…」
みんなが少しざわめく。
(おっ、やっと面白そうな話が出てきたじゃねえか。最初っからそういう話を出せよ、じじい)
(わたしはイヤだなぁ、コワイ話…)
(同感ですわ〜、りりた〜ん。そういうお話はご遠慮願いたいですわ〜)
(ユウちゃん、もしかして、怖いの、すごくニガテ…?)
(戦いに負けて落ち延びた武者、鬱蒼とした昼なお暗い山の森の隠れ里、最後は領主に滅ぼされて…怪談話としては雰囲気満点だねぇ)
(分析するなよ…ハル、お前はいつもさめてるよなぁ)
(ハルさ〜ん、変なこと言わないでくださいですわ〜…余計に怖くなってしまったですわ〜)
(どきどき、どきどき)
「何年か前に、近くの大学から、考古学だか民俗学だかのセンセイたちが、その隠れ里の跡地を調査に来たんじゃ。調査は一応成功したらしいんじゃが…そのあとにの…」
そこで、おじいさんは、にぃーっと不気味に笑って、
「そのセンセイ方、みんな死んじまったんじゃあ〜!」
「どしぇええええ!?」
「じじい、顔で驚かすのはやめろよぉ!」
おじいさんが、目をひんむいて、こっちに襲いかかるみたいに両腕をかざして乗り出してきたから、みんなびっくりしちゃったの。ひどいなぁ、前の方にいたマキちゃんなんて、びっくりしすぎて泣き出しちゃったよ…。
「ったく、じじいときたらすぐこれだ…」
「マキちゃん、大丈夫かなぁ…」
「いや、今日の日の出来事は、あのじじいのおぞましい顔のアップの映像と共に、マキの心に永遠のトラウマとして残るだろう」
「アキちゃん、変なこと言わないでよ〜」
「こっこっこっこっこっ、怖かったですわ〜」ユウちゃん、目がうるうるしてる。
「綾音川、お前もマジにビビってたのか…?」
「怖い話をすると見せかけて、最後は身ぶりと声でおどろかす。単純だけど効果的な方法だねぇ」
「で、そこ。お前はもうちょっと怖がれ」
で、結局その時間は、そんなこんなで大騒ぎのうちに終わっちゃった…。
で、その日の帰りみち。
「せんせい、さようなら〜」
「みんな、気をつけて帰るんですよ」
ワタシとアキちゃん、ハルくん、ユウちゃんは、みんないっしょにようちえんの正門を出て…。
「あれ、ユウちゃん。今日は、黒服さんのおむかえはこないの?」
ユウちゃんはちょっとはずかしそうにほほえんだ。
「ええ…今日は遠慮してもらったんですの。たまには、皆さんと一緒にお帰りしたくて…よろしかったかしら…」
「別に、お嬢様はお嬢様らしく車で帰れば…むぎゅ!」
アキちゃんの言葉が急にとぎれたのは、ハルくんがアキちゃんの口をふさいだから。
「も、もちろんだよ、綾音川さん!僕たちはいつでも大歓迎だよ。ねぇ、りりたん?」
「うん!たくさんで帰ったほうが、たくさんおはなしできて楽しいもんね!」
「むぐぐぐぐ…」
ユウちゃん、うれしそうににっこり。
「よかったですわ。車での送り迎えは、ちょっとつまらないのですもの」
「そうだよ、明日の夏祭りの話とかして…楽しいよ。ねぇ、アキト?」
「ぷはぁっ。ま、まぁ、ハルがそこまで言うなら、しゃーねーかー…」
そこでアキちゃんは後ろをふりかえって、
「でもな…綾音川。どうせなら、後ろのボディーガードの黒服にも遠慮してもらったほうがいいんじゃないか…?」
その言葉に、みんなが後ろをふりかえると…うわぁ。塀のかげとか、植え込みの木の後ろとか、電話ボックスの中とか、ほかにも、いろんなところに…黒服さんだらけ!ひぃ、ふぅ、みぃ…もう、とにかく、たくさんいるの!わたしたちがふりむくと、黒服さんたち、あわててすがたを隠そうとしてる。
「わたくしは、護衛も、必要ないと、言いつけた、はずですけど…それでも、これは…」
ユウちゃんの笑顔がみるみるうちにこわばってく。口のはじがヒクヒクしてる。
「綾音川グループの…護衛部隊は…精鋭揃いでは…なかったの…かしら?」
わたしたちみんなが唖然として物も言えないうちに、ユウちゃんは、すぅと息を吸い込むと、
「黒服!」
ユウちゃんの一喝に、大勢の黒服さんたちが物陰からあたふたと飛び出してくると、わたしたちの前──というより、ユウちゃんの前──にあわてて整列した。すごーい、軽く30人くらいはいそう…。
ユウちゃんは腰に手をあてると、黒服さんたちに説教をはじめた。
「わたくしはそもそも護衛もいらないと言い付けたはずですが、貴方たちの仕事はその護衛ですもの、わたくしを密かに見守ろうとしたそのお心遣いには感謝します。ですが、今の様は何ですか!黒服の基本は隠密行動。なのに、貴方方は満足に尾行も行えないのですか。そもそも、いかな護衛と言えども、これほどの大人数は必要ないことは火を見るより明らか。これでは、子供だって不審に思いますわ」
(で、現に不審に思ったのが子供のオレなんだが…しかし、オレが言うまでお前も気づいてなかったじゃんかよ、綾音川…だいたいお前も子供では…)
「本来ならば、黒服として、減給すらやむなしの失態ですが、貴方方の行動はわたくしの身を思ってのこと、それに免じて、今回は不問に伏すことにします。さぁ、他の皆様方に迷惑です、早く解散しなさい」
ユウちゃんの言葉に、黒服さんたちはふたたびあたふたと散り始めた。あ、黒服さんの一人が、何か落とした。わたしはあわてて拾い上げて、黒服さんによびかける。
「黒服さ〜ん、このカード、おとしもの〜」
でも、考えてみたら、たくさんいる黒服さんの中で、どうやってその黒服さんだけによびかけたらいいんだろ。あ、でも、落し物、カードだから、そこに名前くらい書いてあるんじゃないかなぁ。えーと…ふんふん。よおし。わかった。
「『綾音川ユウお嬢様ファンクラブ・会員番号012238 黒服528号』さ〜ん、カードおとしたよ〜」
一瞬、黒服さんたちの動きが全員ピタリと止まった。
「えっ…」
「綾音川さんの…」
「ファンクラブだぁ!?」
「黒服528号さ〜ん、どこぉ〜」
黒服さんたちのなかから、ものすごい勢いで一人の黒服さんがこちらにやってきて、ありがとうとか口のなかでもごもごと呟くと、カードをひったくるようにしてわたしの手から受け取って、風のように戻ってった。それを合図にしたかのように、他の黒服さんたちもダッシュで、あっという間にその場からいなくなっちゃったの…。
ずどどどどど…。
「何かわたし、悪い事しちゃったのかなぁ…黒服さんたち、いなくなっちゃったけど…」
アキちゃんが目を丸くして私を見た。
「悪いことではないとは思うが…りりたん、お前、自分が何を明らかにしたか…もしかして気づいてないのか…?」
ユウちゃんは顔中真っ赤になったまま。
「わたくし…わたくし…そんな、ファンクラブなんて…ぜんぜん知りませんでしたわ…わたくしなんかに…あの方たち、もしかして…」
「もしかしなくても、奴ら、任務にかこつけて『追っかけ』やってたんだと思うぞ…」
「そんな、わたくし…そうとも知らずに、わたくし…まぁ…」
「なんだかよくわからないけど、すごいね、ユウちゃん…」
「ファンクラブ…僕も入ろうかなぁ…」
「おいおい…何トチ狂ったこと言ってんだよ、ハル…」
その後、ひとしきり黒服さんたちの秘密ファンクラブの話で、帰り道はもりあがったの。ユウちゃん、お顔が赤いまま…。
で、いつもの分かれ道にたどりつく。アキちゃんとわたしはこのまままっすぐ。ハルくんはここでおわかれなんだけど、いつもは車で帰ってるユウちゃんも、実はハルくんと同じ方向なの。ハルくん、ちょっとうれしそう。
「ここから先も一緒に帰る人がいるっていうのは、うれしいものだねぇ…」
「わたくしもご一緒にお帰りできてうれしいですわ、ハルさん」にっこり。
「う!うん、そうだねぇ!あは、あははは…」
「あ、ハルが壊れた」
あ、そうそう、わたし、大事なこと言い忘れてた!
「ねぇ、ユウちゃん。明日、広場で夏祭りがあるんだけど、ユウちゃんもいっしょに行かない?」
「ああ、そうだそうだ!夏祭りはいいぞぉ。屋台が居並び、わたがし、金魚すくい、楽しいぞぉ。それにな…目玉は何といっても…きもだめし!毎年毎年手を変え品を変え、凝ってるんだこれが…」
「ええ。わたくしも今年は行きたいなって思って、お父様にお願いしたんですの。お父様、わたくしが人混みの中に入ることには良い顔をしなかったんですけれど…最後には笑って許して頂けましたわ。ですから、今年の夏祭りはご一緒できますわよ」
「やったぁ!ユウちゃんもいれば、夏祭りもますます楽しくなるね!」
「きもだめしは遠慮ですけれど。今日のおじいさんの話がまだ忘れられないの」
「何を言う、きもだめしこそが夏祭りのキモだぞ。わはは」
「アキト、今の、もしかして『キモ』で引っ掛けたシャレ…?」
「おいおい、ハル、オレと何年付き合ってるんだ。オレがこんな低レベルなギャグをかますと思うか?オレはもっとハイブロウなギャグしか言わねぇぜ」
「まぁ、アキトさん…そうですの?」
わたしはくすくす笑いながらハルくんとユウちゃんに言う。
「もう、アキちゃんの言うことを信じちゃダメだよ。アキちゃん、去年もおんなじこと言ったんだから」
「ぐあっ!ハルよりもさらに付き合いの長い奴の鋭いツッコミ!」
みんながくすくす笑う。
「さて、じゃあそろそろ帰るか。じゃあな、ハル、綾音川!よろしくやれよ!また明日な!」
「ハルくん、ユウちゃん、明日は一緒に盆踊りもしようね〜」
「うん、明日、夏祭りの広場でね、アキト、りりたん」
「さよならですわ〜、お二人とも。明日が楽しみですわ〜」
ハルくんとユウちゃんはわたしたちに手を振って帰っていった。
「さて、オレたちも帰るか」
「明日の夏祭り、ますます楽しみだね」
「おう。でも、今年のきもだめしは、落武者の亡霊がでるかもしれねぇなぁ〜、うらめしや〜」
アキちゃんがおどけて手をぶらぶらさせる。
「きゃあ、やめてよ、アキちゃん!わたし、こわいからきもだめしなんかやらないもん」
「わはは、こわがり」
「なにおぅ!去年のきもだめしの時、わたしと一緒に半泣きできもだめしの出口から出てきたのは誰でしたっけ〜?」
「ぐあっ!またしても鋭いツッコミ!だがな、今年はオレも成長したからな、去年のようにはいかねぇぜ」
「どうかな〜?」
「あっ、このやろう、バカにしたな!みてろよ!ぐおお!」
「ふふふ、ジョーダンだって!もう、おいかけまわすのはやめてってば!くすくす」
わたしとアキちゃんは、じゃれあいながら坂道をくだっていった。