わたし、りりたん!
わたし、りりたん!きょうで4さいになったの!
とうさまは神社のかんぬしさん!かあさまもとってもやさしいの。
でもね…わたし、ないしょのひみつがあるんだ。
それはね、わたし、じつは「へ・ん・し・ん」できちゃうの!
さぁっ、きょうもがんばらなくっちゃ!合言葉は…

「おもてよ、りりた〜ん!」


第0話
「おともだち、あつまれ!」


「とうさま、かあさま、いってきますっ」

 わたしは朝がだいすき。引き戸を開けて、朝の冷たい空気を胸いっぱいに吸い込むのも、玄関のわきにうえてある木の葉っぱについてる朝露にふれるのも、空でかがやくおてんとうさまにおはようを言うのも、みんな、みんな大好き!
 それに、いつも玄関先まで見送りに出てきてくれるとうさまとかあさまも、もちろん大好き!
「いってらっしゃい。車には気をつけるんですよ」
「わかってる、かあさま。それに、忘れ物はないかしら、でしょ?」
「まぁ、この子ったら、もう私の小言を覚えてしまったのね。しょうのない子ねぇ」っていいながら、でも、かあさまはいつものように、優しくほほえんでくれる。藍色の着物の帯にまでかかる黒い髪が、朝のおひさまの光を受けてほんとにきれい。
「わはははは、そんなところもお前の可愛いところだぁ」
 神社中に響くような豪快な声で笑うのはとうさま。とうさまはわたしを抱え上げると、ちからもちの腕にちょこんと乗せてくれる。おでことおでこをくっつけあって、今日もとうさま流の朝のあいさつ。
「今日も一日元気にやってくるんだぞぉ。ほぉら、すりすりすり〜」
「とうさま、とうさまったら、おひげがいたいいたい」でも、とうさまのヒゲは痛いけど、くすぐったくてきもちいいんだ。わたしも思わず笑っちゃうの。
「もう、あなたったら!りりたんがいたがってるじゃありませんか」ふふふ、とかあさまが笑う。
「よし、じゃあ行ってこい!楽しんでこいよ」とうさまはわたしを地面に下ろすと、わたしに向かって手を振った。
「いってらっしゃ〜い」声を合わせて送ってくれるとうさまとかあさまに、わたしも駆け出しながら手を振る。
「いってきま〜す!」

 わたしのおうちは神社さん。敷地の一番奥に社があって、わたしと、とうさまかあさまが住むおうちは、その社のおとなり。玄関から出ると、すぐに社の賽銭箱の前に出るの。わたしは社の前で駆け足のままとどまって、社のかみさまにごあいさつ。
「いってきますっ」
 お友だちは、社がちょっとこわいって言うけれど、わたしはけっこう好きなんだ。あいさつがすんだら、そのまま左手の先にある鳥居をくぐれば、そこはもういつも幼稚園に行くための一本道。この道は、社の前を通っていて、そこをずうっと上っていくと、突き当たりに、わたしたちの通う「かしわぎようちえん」があるの。わたしは朝日にてらされる境内を一気に駆け抜けて、鳥居をくぐって、3段しかない階段をぴょんと飛び降りて…。

キキィーーッ!

「うわぁっ!?」
「きゃあ!車!?」
 何かがわたしをかすめて、ものすごい勢いでわたしの目の前に急停車。わたしは飛びのいた拍子に、バランスを崩してへたりこんでしまう。顔に当てた手の、指のすきまからおそるおそる前をうかがうと…。
「り、り、りりたんかよ…。毎度のことだけど、朝っぱらから元気だよなぁ。過剰なまでに」
「アキちゃん!」正体は隣に住んでる、幼なじみでなかよしさんの男の子、アキちゃんだった。いつものようにお気に入りの青い自転車に乗っている。アキちゃんは、幼稚園からいつもいつもいけないって言われてるのに、それでもほとんど毎日、自転車で幼稚園まで全力で走っていくの。アキちゃん曰く、「俺はマッハの壁を破る」だって。わたしには何のことだかよくわからない。
「んもぉ、いきなりスピードだしすぎよぉ。すごくおどろいたんだから」
「そりゃあこっちのセリフだよっ!こっちがブースト全開でバリバリ行こうって矢先に、急に目の前に飛びなすなよ!朝っぱらから血の惨劇を見るところだったぜ」
「アキちゃん、それちょっとこわい…」
「とにかくだ。お前は飛び出しが悪い。俺はスピード違反が悪い。これで三方一両損だ」
「アキちゃん、それ違う…」
「とにかくっ!これでおあいこだ、おあいこ!今日のことはそういうこと!いいなっ」大きな声出してるけど、ちょっと赤くなってる。
「うん…わかった。ごめんね…アキちゃん」
「いいんだよ。りりたんのおてんばはいつものことだから、な」
「んもぉ」
「わはは。ま、ものはついでだ」体をひねって、自転車の後ろの荷台を手でぽんと叩く。「ほら。乗れよ。幼稚園までのっけてってやる」
「わ、ありがと。でも、見つかると、また園長先生に二人して怒られるよ」
「規則は破るためにある。気にすんな」
「アキちゃん、なんかかっこいい…」
「そーゆーこと。さぁ、のったのった。かしわぎようちえんまで派手にかますぜ」
 わたしはぴょんとアキちゃんの後ろに飛び乗る。実は、いつものことなのだ。
「さぁ、いきましょ!ごぉごぉー」
「りりたん、なんだかんだ言ってけっこうちゃっかりしてるんだよな…」
「…何か言った?」
「いーえ、なんにもでございます。さぁ、ぶっ飛ばすぜ。しっかりつかまってな!」
 アキちゃんはペダルの上で立ち上がると、一気にペダルを踏み込んだ。自転車はぎぃぎぃいいながらも、みるみるうちにスピードを上げていく。景色がどんどん後ろに流れていく。

 わたしは朝がすき。こうやってアキちゃんの自転車の後ろにのって、朝の光を浴びながら、駆け抜ける風がわたしのおさげを揺らすのも、大きな雲がお空を流れていくのも、自転車がたてるからからという軽快な音も、みんな大好き。
「だから好き〜」
「えー、なんだってぇ〜」
「なーんーにーもー」
 わたしたちの自転車は、かしわぎようちえんにむけて、坂道をまっしぐらに駆け上っていった。


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