つれづれなるわたくし ←まえのつれづれ | ↑いちらん | つぎのつれづれ→


鬼哭街

『鬼哭街』
対応機種:Windows 95/98/Me/2000/XP
ジャンル:ストーリーノベル
発売元:ニトロプラス
標準価格:4400円

関連リンク:
ニトロプラス
鬼哭街公式ホームページ
つれづれなる電脳娯楽遊戯
ニトロは電脳ノベルに賭ける修羅

■ ウロブチさん、絶技開眼

 むかしむかし、あるところに、ウロブチさんという、それはそれは闘争と二挺拳銃とバカアクションとジョン・ウーをこよなく愛するおとこがおりました。ウロブチさんは、すきですきでたまらないバカアクション映画を観て目をかがやかせながら、「おれもいつかはこんなさくひんをつくってやるんだ」とちかうのでした。たぶんね。そして時はながれ、ウロブチさんはみごとにその夢をかなえたのでした。おしまい。

 …でも、その媒体がエロゲーなのはなぜだろう(笑)。

 まあそれはともかく、銃弾と血と死と任侠が湯水のようにばらまかれるソリッドな芸風が、おなごを拉致監禁してあはーん、とか、学園で意中のおなごと仲良くなってうふーん、とかいう作品が大半だったエロゲー界において過剰に新鮮だったのは間違いなかったらしく、気がつけばウロブチさんこと虚淵玄の属するニトロプラスブランドは、『Phantom Of Inferno』や『吸血殲鬼ヴェドゴニア』などの一連の作品で、特にエロゲーは好きだけどバカ映画とバイオレンスはもっと好き、という変わったヒトタチ(ワタシもだ)のハートをがっちりゲットし、エロゲー界においてかなり特殊な新規ニッチを開拓したのであった。以上、簡単な復習。

 そんなニトロの新作『鬼哭街』、ストーリーは「組織に裏切られた上、妹を組織の幹部たちに陵辱され殺された凶手(内家功夫の達人)が復讐のために幹部を一人づつぷちぷちと血祭りに」という直球勝負なサイバーパンク武侠片。おまけに公式ページのキャラ紹介を見てみたらば、主要登場人物は野郎か姉御ばっかりで、いわゆる萌えキャラは性玩具のアンドロイドくらいという思い切りっぷり。今までは一応、主要登場人物は15、6歳ほどの少年少女(ソフ倫的には成人)で固めるとか、学校が舞台だったりとかのエロゲー的最低限のお約束は守ってたのになぁ。しかもゲームですらないのだ、今回は。今回のジャンルはストーリーノベル。いわゆる電脳紙芝居。いや前回の『吸血殲鬼ヴェドゴニア』も選択肢はあって無きがごとしだったけど、なんぼなんでも選択肢ナシっちゅうのはどうなんだ。ワタシも今や『AIR』はSUMMER編だけで十分と公言してはばからん身ではあるけど、マジにSUMMER編だけが商品として売り出されたらちょっと考えものだと思うぞ。うむぅ。

 …が。

 小学校に上がったばっかりの年頃に、いきなり親に連れられて『ダイハード』を劇場で見せられたり、我が家で買ったビデヲデッキで最初に家族全員で見た番組がいきなり『キラークロコダイル』だったり、その後毎週のように深夜に放送してるアメリカ製ぼんくらアクション映画を親が録画して見せてくれたりしたおかげで、すっかり何かのセンスが歪んでしまった大人に育ってしまったわたくしは、
黒のロングコートにポン刀を携えた主人公の姿
…に、なんだか親近感を感じてしまったのですよ。何の親近感だ。おまけに敵は全員サイボーグ武芸者と来たもんだ。武芸者です。体を全身機械化して、何を始めるかと思えば全員雁首並べてカンフーですよ?他にすることはなかったのか。
 しかもサブタイと来たら「The Cyber Slayer」。サイバースレイヤーである。サイバー。今時大上段から振りかぶる単語として、これほどこっ恥ずかしいモンもそうはあるまい。今時サイバーかよ!

 …購入決定。

 なんでだ。

 というわけで、何かが何かの琴線に触れてしまったわたくしは、早速買ってきてプレイ…というか、読んでみる。だってストーリーノベルだし。そして数時間後、読了。で、結局どんな話だったのかというと。

全身をサイボーグ化した
デタラメな格闘家たちを
肉体の神秘を極めまくった
さらにデタラメな主人公が
次から次へとちぎっては投げちぎっては投げ。

 …素敵すぎる。もうこれののどこが18禁なんだかさっぱり分からんが素敵すぎる。サイバーな近未来で何も格闘で戦わなくても、ともちらりと思ったりもするが、この話は、常に銃弾よりもケルナグールの方が強いという、ともかくそういうプライオリティに貫かれているのである。
 というわけで、今から皆様を拳と蹴りと任侠とサイバーの世界へご案内。なお、パッケ表面には一応18禁シールが張ってあったりしますが、その実、実際の内容の方はといえば、

 『デスペラード』で濃厚にハメまくるアントニオ・バンデラスとサルマ・ハエック以上には萌えないので夜も安心。

 つまりはそんな感じです。どんな感じやねん。というか、その表現でどういう情報を読み取れと。

■ ボインもみもみも〜みもみ マシンアームでも〜みもみ

 身体のサイボーグ化が当たり前となった近未来の上海。上海を牛耳る裏社会の雄・青雲幇に属する凶手、孔濤羅(コン・タオロー)は、マカオでの任務の際に、ほかならぬ自らの組織に消されかける。訳も分からず死線をさまよい、やっとのことで1年ぶりに上海に戻った彼が知ったのは、自分を裏切ったかつての仲間たちが青雲幇の香主として組織の頂点に君臨していること、そしてさらに、あろうことか彼らが、濤羅の最愛の妹、端麗(ルイリー)を陵辱し殺害したという非情な事実であった。
 仇は5人。怒りに身も心も焼き尽くされた濤羅は、一振りの倭刀と、鍛え上げられた内家功夫の秘技で、香主たちに孤独な復讐を開始する。濤羅の最大の武器は、極限まで極めた気功によって、打突と同時に相手にEMPパルスを撃ち込み、相手の鋼化神経を焼き尽くす、対サイバー気功術、電磁発勁「紫電掌」。復讐鬼・濤羅は魔都上海の闇を駆ける…。

 …そして。

 上記のストーリーを読んで燃えまくり、さっそくアプリを立ち上げて読み始めたワタシの前に現れたのは、香主の一人、樟賈寶(ジャン・ジャボウ)が、ベッドの上でガイノイド(性玩具用のアンドロイド)の少女の胸をもみもみしている光景なのだった。樟賈寶は、両腕を巨大なマシンアームに変更した重サイボーグで、別名「金剛六臂」。女衒街の用心棒から青雲幇の香主に成り上がったヒト。そんなデカくてゴツいにーちゃんが、デカくてゴツいマシンアームでボインをもみもみするもんだから、もみもみするたびにマシンアームが、嗚呼マシンアームが「じゅぎゅいーん」サイバーな音を立てるのですよ!じゅいーんですよ!ぎゅいーんですよ!もう俺様大喜び。

 揉みてー!俺もマシンアームを腕に移植して「じゅぎゅいーん」とかサイバーな音でおなごのボインを揉んでみてぇー!

 そんな具合にワタシが明後日の方向で悶絶している間に、樟賈寶の元を訪れる男が一人。幽鬼のようにやつれた身体に、ほころびた黒のロングコートを羽織った男。聞けば、件のガイノイドを楽しみに来たと言う。だが男の振る舞いにはあまりに隙がなさすぎる。男の眼中には樟賈寶などなく、ただ件のガイノイドを慈しみを込めた目で見つめるのみ。かつての神経系外科手術の後遺症で相貌認識を失っている樟賈寶は、ついに男に問う。前にどこかで会ったことがないかと。しかし次の瞬間、予想もしない事態が…!さあ、死人バトる!

 …そんな感じでタオローさんの愉快な復讐劇が始まったりするわけですが、黒のロングコートにポン刀というアクション主人公の服飾規程を120%満たしまくり、立ち絵からして既にダークヒーロ的カッコよさに満ち溢れまくっているこの濤羅さん、とにかくもう強い強い。恐らく、

エロゲー史上最強の戦闘能力を有する主人公

であることはほとんど間違いないであろうと思われます。並み居るサイボーグを斬り倒し、銃を突きつけられても慌てず騒がず斬り倒し、紫電掌で相手をザラキする華麗なる凶手。インフェルノに所属したら10秒フラットの世界新な早さでファントムの称号獲得は確実。ヴェドゴニアと対決してもたぶん勝つ。エルクゥ程度だったらまず対決するところまでも行かなさそう。戴天流剣法を修めた濤羅の剣はあらゆるものを断ち切り、丹田に気が満ちたときに見せる軽功術による超運動能力は重力のくびきすら脱し、一刀如意の境地に達した剣術は刀圏に踏み込んだもの全てを斬って捨てる。鋼化神経回路のリミッターを解除し、肩の増加装甲を排除した樟賈寶のメガトンパンチ連打を、右手の倭刀一本で完全に防御する孔濤羅。そんな場面が文章上に展開している間、BGMとともにずーっと、

 じゃきじゃきずきゃーん!ずがずがずがぎゃいーん!ずごずごかいーん!ががががががきーん!ずどずどずど…

…と、樟賈寶のマシンアームと濤羅の倭刀が火花を散らす剣戟音が効果音として流れまくり。相手に倭刀を突きつけた時の、口元を吊り上げた邪悪な笑みもステキ。もう痺れまくりのわたくし。

 そんなステキなバトル世界を裏で支えているのが、シナリオライター虚淵玄の文章。全編これもう趣味の世界といったあんばいの今回の『鬼哭街』ですが、今回の文体は明らかに前作『Phantom Of Inferno』『吸血殲鬼ヴェドゴニア』のそれとは一線を画す硬質な文体。ゲームの文章とは思えないほど情緒深く、力強く、普段エロゲーでしか文章を読まないヒトタチを完全に置いてけぼりにしたその流麗な文体は、一見荒唐無稽な描写をもはや荒唐無稽とは思わせないという絶技開眼レベルにまで達しており、読んでてもう燃えること燃えること。瞬間瞬間のシーンを最大限に引き立てる局所最適な文体では、この人の右に出る人はなかなかいないんじゃないかしら。っていうか、これだけ書けるなら最初からこの調子で行ってよぅ。

 そんな感じで作者も主人公もすっかりイケイケの本作ですが、決してバトル&バトルの能天気デスペラード状態な話ではないところもポイント。主人公の濤羅は最強ではあるけど無敵ではないのだ。紫電掌を放つたびに、限界を超えた気功の運用によって身体に深刻な障害を負っていく孔濤羅。それでも、妹の復讐のため、そして、わずかに残るかすかな希望のために、我が身を犠牲にして戦う修羅、孔濤羅。その姿にはえもいわれぬ哀感が漂い、ストーリー全体にはいわゆるジョン・ウー的エモーショナリズムが漂うのであった。だがよいぞ。これは。

 …ところで、主人公の孔濤羅、すげーカッコいいんですが、正直、
 ちょっと生え際が怪しいぞ孔濤羅。
 額の微妙な後退具合に、別の意味で哀感が漂う孔濤羅であった。アンタ、そんな弱い毛根で酸性雨の中を歩いちゃ駄目(笑)!

■ スゴすぎ、浦東地獄変

 次々と青雲幇の香主をその手にかけ、復讐を一つまた一つと遂げていく孔濤羅。次の目標は、青雲幇の表の顔、アジア圏におけるサイバネティクス部品関係の業務を一手に引き受ける巨大企業・上海義肢公司の社長、呉榮成(ン・ウィンシン)。呉榮成はかつて殺人プログラム開発で名をはせた電脳犯罪者、別名「網絡蠱毒」だ。だが彼は濤羅の襲撃を警戒し、警備厳重な上海義肢公司の本社ビルから出ようとしない。そんな呉榮成に対して、孔濤羅がとった手段とは? 濤羅、榮成、それに現在の青雲幇に不満を抱く下部構成員や、青雲幇のシェアを奪いたいロシアン・マフィアまでをも巻き込んだ、壮絶なバトルロイヤルが開始された!

 というわけで、

 孔濤羅vs呉榮成は凄いぞ皆読め。

 つうかめちゃド派手な『クローム襲撃』。いやーカンフー野郎と電脳ハッカーがどう戦うのかと思ったら、戦闘ギア軍団が豪和ビルディングに突入していく米軍イシュタルアーマー部隊のごとく上海義肢公司に突っ込んでいくわ、濤羅はワイヤーアクションのジャイアントスイングで突入するわ、たちまち本社ビルの廊下は阿鼻叫喚の生き地獄と化すわ、そんな中を濤羅は気功パワーでさくさく斬り進んでいくわ、青雲幇から派遣されてきた双子の用心棒・元氏双侠は八面六臂の大活躍だわ(阿吽覆滅陣には腰が抜けるほど笑った)、果ては呉榮成のガイノイドまでが大活躍、しかも当の呉榮成は人間ターミネーターと化した孔濤羅の追撃を一度は振り切るという大殊勲を成し遂げたりしてもう最高。
 しかし本当に凄いのはその後。呉榮成が孔濤羅の追撃を振り切り、読んでるこっちもなんぼなんでもこれはもう追撃不能だろうと思ったその瞬間、孔濤羅はやってしまうのだった。

まさに怒涛の大追撃
ターミネーター以上の執念と
スパイダーマン以上の運動能力で
呉榮成に喰らいつく孔濤羅。

 つうかアンタ生身の人間だろ、というツッコミすらもはや介在する余地のないぶっ飛んだアクションシーンが展開されてしまうのであった。もう笑い止らず。つうかホントにターミネーター以上でスパイダーマン以上なので完全にアゴ外れ。なんつーかもう、

エロゲー戦闘史上に残る大決戦

と言っても過言ではあるまい。何だよエロゲー戦闘史って。ともかく、おバカアクションもここまで極めれば大したものである。ワタシはもし『鬼哭街』が映画化されたら観に行く。このシーンのためだけに観に行く。今決めました。実際にどういうシーンが展開しているのかお伝えできないのがつくづく残念です。ひょー!その後の濤羅さん覚醒シーンも必見。「ここまでの四手、どうやら音速よりも早かったらしい…」とか大真面目に言うなよ!面白すぎ。

 そんなわけで、ステキダイハード世界を堪能してすっかり満足のわたくし。ビバカンフー!ビバ気功!サイバーでソリッドな世界はますます加速し、濤羅の戦いも佳境を迎え始める。
 そしてますます忘れ去られる萌え。どんどん存在意義をなくしていくパッケージ表のソフ倫18禁シール。

■ 既知外だらけのヒトタチ

 数限りない紫電掌によって、もはや取り返しのつかない損傷を被っている孔濤羅の身体。しかし、最後の一人をその手で滅ぼすまで復讐は終わらない。無辜の人々を手にかけ、かつて義兄弟の契りを交わした仲間も殺めた。その行く末に控えるは、青雲幇の香主の最後の一人、人呼んで「鬼眼麗人」劉豪軍(リュウ・ホージュン)。戴天流における濤羅の兄弟子だった男。濤羅をマカオで斬った本人。そして濤羅の妹・端麗の婚約者だった男。青雲幇も崩壊を始める中、廃墟と化したかつての濤羅の邸宅で、濤羅と豪軍、宿命の対決が始まる…。

 そんなわけで、最後はいかにもな宿命の対決で盛り上がるのであった。どのくらい盛り上がるかっちゅうと、最終章は、
 まるで渡辺信一郎が監督したかのようです。
 (注:渡辺信一郎…『機動戦士ガンダム0083』演出、『マクロスプラス』『カウボーイビバップ』監督。彼の手がける物語は、たとえどんなに壮大な設定や大義があろうと、最後は必ず1人のヒロインを巡って2人の男が痴話喧嘩を繰り広げるというところに帰着するのであった)
 つうか最後は、こりゃカウボーイビバップかよ!と半分マジに思ったわたくし。まったくもってすがすがしいほどの痴話喧嘩っぷりである。特に劉豪軍!あんたいくらなんでもやりすぎ(笑)!
 しかしそこを除けば、さすがにラストバトル、しかも同門対決だけあって見ごたえのある兄弟弟子対決が拝めるのであった。と思ったら、サイボーグ化した身体の真の力を解放する劉豪軍。劉豪軍の義体に秘められた能力とは!? これ、意外と盲点のアイデアで、後に冷静になって考えてみると結構意表をついていて良かったなぁ…とか思うも、ごめん、最初にこのシーン見たとき、

 正直、内臓吐くほど笑った。

 いや確かに孔濤羅をしてあれくらいなんだから、その伝で行けば確かにそうなるだろうけどさ…劉豪軍、あなた面白すぎです。自分の能力を冷静に解説してる場合じゃないだろ!いやー、vs呉榮成も全部この時のための伏線に違いない。つうかこの世界の人たちは気軽に音速超えすぎです。おまけに2人が戦っているその傍らじゃ、2体のガイノイドがうふんあはんと絡み合っているという、シュールすぎてもう笑うしかない状況。もう大好き。
 しかしその一方で、終盤を通して一貫している救いのない展開が絶妙な哀感を醸し出していて良。って、フォローになってませんか。なってませんね。

 しかし本作の最大のキモは、さらにその後のエピローグの展開だと思ったりするわたくし。復讐に狂った孔濤羅はもちろん、たかが痴話喧嘩でそこまでやるかの劉豪軍も相当なガイキチだと思うが、まさか最後の最後になって、彼らをも上回る真性のサイコさんが登場してくるとはさすがに予想外だったぞ。ラストは一見この上ないハッピーエンドなんだけど、実は同時に至高の恐怖エンドでもあります。ザッツ自己完結。怖いよ!めちゃ怖いってコレ(涙)!やるなぁ。

■ それでもやっぱりサイバー武侠

 というわけで、終わってみれば選択肢ナッシングの電脳紙芝居もなんのその、かなり楽しめましたですよ『鬼哭街』。何よりも、過去の名声におぶさることなく、ちゃんと読ませるサイバー武侠片になってるところがよきかな、よきかな。無論、黒コートのあんちゃんがケルナグールしていればそれでよしというぼんくらなアナタ(ワタシもだ)も期待してもらって大丈夫。虚淵玄印のソリッドハードなアクションが好きなアナタ(ワタシもだ)は買いだ!

 …で、最後に根本的な疑問をひとつ。

 これのどこが18禁なんだ(笑)?

 だってこの作品におけるエロなんて蛇足みたいなもんだし。とっぺんぱらりのぷう。
←まえのつれづれ | ↑いちらん | つぎのつれづれ→
『暴走野郎』トップページへ