『カウボーイビバップ』
監督:
渡辺信一郎
キャスト:
山寺宏一(スパイク)
石塚運昇(ジェット)
林原めぐみ(フェイ)
多田葵(エド)
関連リンク:
COWBOYBEBOP.com
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つれづれなる最近見た映像文化
THE REAL FOLK BLUES
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- この作品の何がいいかって、言葉にすると途端に魅力が色褪せるということ。たぶん1話1話のストーリーをそのまま文字でなぞっても、それを読んだだけではたいして面白い作品とは思えないはず。もちろんストーリーも作品を構成する重要な要素だけど、数ある要素の一つにすぎない。何気ない仕種。会話の間。生活に溶け込みきったテクノロジー描写。瞬間の絵。音楽。伝えたいこと。それら全てが自然に絡み合った不可欠の要素であり、どれか一つが欠けただけでも魔法は消えてしまう。
- この作品には、世界を揺るがすような陰謀も、山をも消し飛ばすような超能力も、画面を埋め尽くすような大艦隊戦もない。ただ、太陽系があって、各惑星に植民が行われて、そこで人がその日その日を生きていて、僕らはビバップ号の賞金稼ぎの目を通してそれらを見ていく、それだけの話だ。それだけの話なのに、この作品は、今まで見たどの作品よりもはるかに印象的だった。一つの話を見終わるたびに、次が見たくなった。どの話一つとして見逃したくはなかった。各話は何度も見返した。何度見ても面白かった。
- そんな作品を、僕は初めて見た。
- COWBOY BEBOP
- カウボーイビバップ
- 今から1世紀以上も前、チャーリー・パーカーというサックス吹きがいた。
- 奴は音楽を譜面通りに演奏しなかった最初の男らしい。
- つまり、型通りに演奏するにあきたらず、アドリブをかまし、自分のスタイルで吹いたってことだ。
- やがて奴の始めたその音楽は「ビバップ」と呼ばれるようになった──
- (Jet Black)
- というわけで、とうとうWOWOWで俺的大絶賛放映中だったスペースわびさびジャズアクション「カウボーイビバップ」が完結してしまいました。最終話「ザ・リアル・フォークブルース」の凄絶なまでのカッコよさといったら、もぅ。過去と決別する、なんてありきたりな流れじゃなくて、過去に目覚めて過去に殉ずる、という姿だからこそ、最後は加速度的にテンションが上がりまくり、一方腹の底はしくしくきやがる。そしてあのただのハッピーエンドよりもずっとビバップらしい、あの素晴らしいラスト。完璧な終わり方しやがった。カッコいいとはこういうことさ!
- 思えば、ビバップを見だしたきっかけは、おともだちの紹介だったなぁ。テレビ東京放送時代に「君ならきっと気に入ると思う」とか言われて、何の気なしに「ワルツ・フォー・ヴィーナス」の回を見てみたらこれがもう、ドツボ。オープニングテーマ「Tank!」を出だしを聞いた瞬間に、一世一代の大当たりを引き当てたことを確信しましたな。この時から既に同時にビデヲ予約もかましていたのは、何かの虫の知らせとしか言いようがない。おまけに次の回は「ジャミング・ウィズ・エドワード」で、予告画面は壮絶にドッグファイトしてたりするのに、ナレーションと音楽が壮絶にすっとぼけていた(笑)。「ワルツ・フォー・ヴィーナス」でしんみり来ていたところに、強引に大笑いさせられたわたくしは、完全にノックアウトされて、次の回からは欠かさずビデヲ録画と合わせて見るようになりましたな。とにかく完成度が高かった。隅から隅まで微塵も手を抜いていなかった。
- 例えば、子供たち。テラフォームされた火星のどぶ川で釣りを楽しんでいる子供。公園に着陸させたソードフィッシュに物珍しげにたかる子供。道を追いかけっこして走りぬける子供。ボール遊びをしている子供。各惑星が位相差空間ゲートで接続され、太陽系中に植民が行われている時代でも、子供は昔から何も変わらなかったように走り回っている。
- 例えば、マシン。個人がモノマシンと呼ばれる自家用機で空を飛ぶのが当たり前になった世界。車のように当たり前に路上に停められている。しかし地に目を転じれば、今と変わらぬ自動車が相変わらず道路を走り抜けている。
- 位相差空間ゲート。太陽系の各惑星、各衛星の間を飛び越えるための手段。誰もが高速道路並みの手軽さで惑星から惑星へと渡り歩く。船の端末からは、料金所からの、プリントアウトされたゲートの領収書が、何ヶ月分も切り取られずにつながったままになっている。そのゲートも、過去、西暦2022年に月面上で爆発事故を起こしている。その爆発は月を吹き飛ばし、地球の軌道上には、その月のかけらが無数に浮遊することになった。月のかけらが降り注ぎ、日々クレーターで地形が変わっていくこの世界の地球。月ゲート爆発事故は、ビバップの話にも微妙な影を投げかけている。
- 惑星。テラフォーム。金星のテラフォームに使用された浮遊植物は、一部の人間に激しいアレルギー反応を引き起こし、最悪の場合失明にいたる恐れがある。特効薬となる植物には天文学的な値がついている。火星は最初期に植民が行われた惑星であり、中国系の住民が幅を利かせている。ガニメデは海に覆われた美しい星で、漁業が盛ん。ガニメデの海に生息する海ネズミに対しては、近年保護活動が盛んになっている。
- 束縛を嫌うものは、最後には、廃棄されたゲートと、それに便乗して棄てられた船の残骸などの集積体へと流れてくる。法も警官もなく、残骸の中で彼らなりに幸せに暮らしている。
- しかしこれら全ては、ビバップの話の中に自然に溶け込んだ背景でしかない。ガニメデの漁業船を改造した宇宙船、ビバップ号で、賞金首を追って飛び回る賞金稼ぎ、スパイクと相棒のジェット、ふとしたことからビバップ号に転がり込んできたフェイ、エドらの目を通して、いろいろな話が目の前を流れていく。
- 時には、それは軽妙なコメディだった。あるときには、賞金首を捕まえるために、一匹の犬を巡って火星の都市を駆け巡っていた。衛星軌道上からレーザーで地球の地表に落書きをしたというハッカーを捕まえようとしたときには、犯人ではなく、変わり者のハッカーにぶつかることになった。ゲートの料金所にハッキングユニットを仕掛けて、利用者の全財産を抜き取る賞金首を見つけたときには、犯人は意外な姿をさらしていた。
- 時には、それは不条理劇だった。宇宙をさまようビバップ号の内部で、乗組員が、ひとり、またひとりと、姿を見せぬ謎の生物にやられていく。最後に残ったスパイクはその生物と(しかたなく)対決するが、謎の生物は最後まで謎のまま。あるときには、金も食料も底をつき、船を当て逃げされて不時着した衛星イオで、エドとアインが食料を探しに外へと出て行く。
- 月ゲート爆発事故で、人生が永遠に変わってしまった子供がいた。目が不自由な妹のために、金星病の特効薬を持ち逃げして悪の仲間から追われることになった男がいた。高利貸しを殺して逃げようとした男女がいた。ヘヴィメタルを流しながら荷物を運ぶ女トラッカーがいた。前世紀の遺物となったスペースシャトルをメンテナンスする男がいた。皆、ビバップの面々とどこかで交わることになる。
- 音楽があった。ジェットがかつての恋人を追いつめるとき、フェイの昔の淡い恋物語のなか、エドが人工衛星制御プログラムと話すとき、スパイクが敵地となる教会へと足を踏み入れるとき、そのほか、どんな時でも、そこには印象的な音楽があった。
- 時には、それは対決の物語だった。ふとしたことからスパイクは、伝説的な殺し屋に狙われることになってしまう。無数の武器を持ち、自由に宙を舞い、銃弾すら特殊力場で無効化してしまう殺し屋だった。火星の遊園地、スペースランドで、色とりどりのイルミネーションの中、スパイクと殺し屋の対決が始まった。
- レッド・ドラゴンという組織があった。毒蛇のような男がいた。肩にいつも怪鳥をとまらせ、刀を振るって人を殺した。恩師を殺し、自分を庇って死んだ部下を一顧だにせず、ついには組織の長老たちをも殺した。男は最後に、最高権威者の座る椅子に収まり、自分を殺しにくる男を待っていた。かつては仲間だった、過去に何度か刃を交えた男を待っていた。
- 男がいた。男はかつてレッド・ドラゴンに属していた。男は女と出会い、そして全てが変わった。毒蛇と刃を交えることになった。女を連れて組織を抜けようとして、死んだ。死んだことになっていた。女の名はジュリアだった。今、男は、ビバップという名の船に乗り、賞金稼ぎをしながら、覚めない夢を暮らしていた。
- 結局のところ、「どの部分が」好きだ、という訳ではなかったんだろう。上のような要素全てが合わさった、ビバップという一つの話全体が好きだったんだと思う。
- アニメは今までにもいろいろ見てきた。どの作品にもそれぞれ良いところがあった。でも、見ていない人に是非オススメしたい、と思うのは、後にも先にも今回限りのような気がする。普段アニメは見ないような人でも、少しでも興味を引く部分があったのなら、その時には、一度でいいから、偏見を取り払って見てほしいと思う。既にビデオ・LDでしか見ることができないが、ビデオレンタルの店で、とりあえず1本ビデオを借りてみてほしいと思う。そして、そのビデオ代が無駄にならなければ、こんなに嬉しいことはない。
- 僕の本棚には、それなりにたくさんの本が並んでいる。その中でも、本当にお気に入りと自信を持って言える本は、片手で数えるほどしかない。そんな本の隣に、ビバップを録画したカセットテープも並べてもいいかも、そう思っている。
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