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名古屋市交通局
つれづれなる…
地下鉄紀行

 今も昔も庶民の足といえば地下鉄。毎日文句も言わずに膨大な人々を運び続ける地下鉄。私も日々の通学にお世話になっている地下鉄。地下鉄ってえらいんだねえ。
 というわけで、今回は、私が日々の地下鉄生活で遭遇した変わったできごとをつれづれなるままに綴ってみようと思います。それにしても名古屋市営地下鉄。頼むから運賃値下げしてくれえ。初乗り200円(全国トップタイ)なんて公共の乗り物じゃないよう。あそこの本屋にも、あそこの本屋にも、交通費がかかりすぎて、おいそれとは行けないじゃないかぁ(そうきたか)。

 私がまだ浪人だったある日のこと。その日は予備校が早くに終わり、私は3時頃にして既に家路についていた。いつものように地下鉄の人となり、乗り換えの駅で、乗り換え先の線のプラットフォームに向かっていたときのことだった。
 さすがに平日の昼下がりは客も少ない。いつも夕方は帰宅ラッシュでごったがえす駅も、今は人もまばらにしかいない。そんななか、プラットフォームに近づくうち、私の眼はその中のある二人のところで止まった。
 アベックだ。いつも私が乗り降りする辺りで、人目をはばからずいちゃついている。一人がもう一人の腰に手を回し、回された方はもう一人の方に頭をもたせかけている。そんなふうにぴったりと密着しながら、ゆーらゆーら揺れて二人だけの甘い世界に浸っている。ちょっとうらやましい。
 まったくもう、昼間っから見せつけてくれちゃって(私にゃ無縁の世界だな、トホホ)…と思いかけたところで、私は、二人の何かが変なことに気がついた。どうもひっかかる。しかし、まだなにぶん遠目なので、よくわからない。私はぶしつけに二人を見つめないよう、注意しながら近づいていった。どうせ、私もその辺りから電車に乗り込むのだ。普通ならそんなアベックは気にもとめないのだが、今回の輩は、どうも何か違う。
 私は、二人がはっきりと目視できる位置まで近づいていった。が、自分の見ているものが何かをはっきりと認識した瞬間、私はついに違和感の源を知った。同時に、自分の下世話な好奇心をモーレツに後悔した。
 アベックは、お二人とも男の方でした。
 一人はやや長髪の、涼しげななかなかの美男子。もう一人は、心持ちアニキな風貌の兄ちゃん。そんな二人が、「こいつぅ」「うふふっ」とか言いながら絡み合っているのである。もはやお約束に近いが、「うふふっ」と言いながらもう一人にもたれているのは、アニキの方である。
 周囲の視線を浴びつつも、そんなことはまったく介さない幸せな世界に生きる二人の男。人間には、いろいろな愛の形があるのだなあと学んだ、ある日の午後だった。

 次の話は、それからまたしばらく後のこと。
 帰宅途中の地下鉄車内。運良く席を確保できた私は、一日の疲れからうとうとしかけていた。車両は心地よく揺れ、私はやがてまどろみの世界へ…。
 「んまー奥さん、ひさしぶりいっ」
 車内に響きわたる、突然の下品な黄色い声によって、私の平穏は一瞬にして破られた。なんだなんだと思って回りを見てみると、まるまる太った、着飾ったおばはんが、私の席の右方に腰掛けている上品そうなおばさんに話しかけている。先ほどの大音声の源は、あの太ったおばはんのようだ。「まーほんとに最後に会ったのはいつのことかしらぁ、ぺらぺら」などという会話の内容から察するに(だってイヤでも聞こえて来るんだもん)、明らかに旧知の者同士の再会である。しかし、太ったおばはん(以下おばはん)が一方的にまくし立てているような気がするが。こころなしか、お相手のご婦人が迷惑そうな顔をしているように見えるぞ。
 そんな中でも列車は進む。相変わらずぺらぺらと喋り続けるおばはん。が、次の停車駅のアナウンスが入った頃、やっと「ごめんなさいねぇ、私、次の駅で降りなきゃ行けないのよぉ」。おお、運命の神様ありがとう。これでまた安心してうつらうつらできる。プラットフォームに滑り込む列車。「また会えるといいわねぇ、なごりおしいわぁ」わたしゃ少しも名残惜しくはないぞ。「あ、そうそう、そういえば息子さんはおげんきぃ?」そうそう、そうやってさっさと別れの挨拶をして列車から降り…んー?
 列車、最終減速段階。「うちの息子ったらねえ、もぉー」
 この駅で降りるんじゃなかったのか、おばはん。どう考えてもこのまま話し続けたら、降りる機会を逸するぞ。
 列車、ついに停車。ドアが開く。「あーら、着いちゃったわ、私この駅で降りるのよぉ。じゃあ、まだ話していたいけどぉ…」。再び別れの挨拶が始まるが、やはりすぐには終わりそうにない。ぞろぞろと降りていく他の乗客たち。
 「また、ほんとに会えるといいわねぇ。息子さんもお元気のようで…」ぞろぞろと乗り込んでくる乗客。そして、ついに最終宣告が車内に響きわたった。
 「扉が閉まります。ご注意ください」
 まだまだ話し続けそうな様相だったおばはんだったが、ここに来て、やっと自分の置かれた状況に気がついたらしい。プルルルルと最後のベルが鳴り響く中、自ら招いた危機に狼狽するおばはん。別れの挨拶もそこそこに、あたふたとドアに向かって駆け寄る。しかしその時、既にベルは鳴りやんでいた。まだドアの前にすら達していないおばはん。どう考えても間に合うタイミングではない。
 今まさにおばはんがドアの前に達した瞬間、ぷしーと無情な音を立ててドアが閉まり始めた。もはやくぐり抜ける術を持たないおばはん、ドアは彼女の眼前でぴしりと閉ざされ、一人車内に取り残されて、降りるはずだったプラットフォームが後ろの方へ流れていくのを呆然と見守る…。
 はずだった。
 「ちょっと待ってぇ」がし。
 その瞬間、車内の誰もが我が目を疑った。ドアが閉まっていない。ドアの間に、人の頭ほどの隙間が生じている。おばはんが、嗚呼おばはんが、閉まりゆくドアに両手をかけ踏ん張って、ドアの閉鎖を阻止しているではないか!なんという力、なんという度胸。誰もが体面を気にかけてやれなかったことを、今、このおばはんがついに成し遂げたのだ。
 しばし、閉まろうとするドアと、強引に引き開けようとするおばはんの力が拮抗した。しかし、次の瞬間、ドアはオバタリアン(死語)パワーの前に屈服した。第3使徒のATフィールドを破り去る初号機よろしく、仁王立ちで、ドアを強引に解放するおばはん。ドアは再び、全開状態となった。
 「いやー、もう間に合わないかと思ったわぁ」ぶつくさ言いながら、後も見ずにてくてく下車していくおばはん。呆然とする乗客を残して。無論、この間列車は止まりっぱなしである。発車できるわけがない。あんた、強引に間に合わせたんでしょうが!時には強引でなければ、世の中は渡っていけないと痛感した、ある日の夕方だった。

 さーて、次回の地下鉄紀行は…
 「プラットフォームの怪人!ウサギ使いの男」
 「地下鉄車内の突発手品師」
 の2本でーす。また見てくださいねー。んがんぐ。

 (続かないってば。ウサギ使いも手品師も本当のことだけどさ)

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