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社会法人 日本自動車連盟(JAF)
つれづれなる…
人はかくあるべし

 「もう米がないんだけど、お米って、ほら、重いでしょ。だから、車でスーパーまで乗っけてってほしいのよ〜」
 と、我が母はのたまった。私の母は免許を持っていない。
 私はといえば、前日は夜中の3時半までレポートを書いていて、起きたのが既にお日様も天高く昇っている11時。起床30分後、まだ遅い朝飯も喰い終わらないうちからそれか。まあいい。ここ3週間ばかり車に乗ってないし、いい加減乗らないとバッテリーが上がっちゃうからね。たまには親孝行もしないと。
 とりあえず、その10分後、私は母を引き連れて、マンションの駐車場に停まっている愛車(親の車だっちゅうに)の座席に収まっていた。いつものようにシートベルトを締めて、キーを差し、くいっとひねる…。
 「きゅるん」
 し〜ん。
 あれぇ、おかしいなあ。エンジンがかからないぞお。もういちどだ、えいっ。
 「きゅるん」
 し〜ん。
 どうしちゃったのかなあ、カリーナくん。ひとをからかうのはよくないぞお。えいっ。
 「きゅるん」
 し〜ん。
 ええいいい加減にエンジン始動せんかいこのポンコツぅぅ!!
 「きゅるん」
 し〜ん。
 おとなりで母が「何度もやってればそのうちエンジンもかかるわよ」などと言っている。無理だと思うが…。「きゅるきゅる」とすらいわんぞ、このエンジン。これは、実にマズイ。考えられる原因はただ一つ。いくら長い間ほったらかしにしてあったからって、ここまでパーペキに放電しきってしまうとはねえ…。
 バッテリー崩御(平成9年12月13日午前11時38分)

 身を切るような木枯らしがぴいぷう吹く中、動かない車を前に、しばし考え込む我ら。とりあえず、自分たちだけでは何をどうしていいものかさっぱりわからないので、ここは安直にプロに頼ることにする。完全に動転しているわたくしと母。
 タスケテJAFぅ〜。
 サービスセンターに電話をして、待つことしばし。救いの神、颯爽と現る。サービスマンは、作業着に身を包んだ爽やかな兄ちゃんであった。
 「車はどこですかぁ」
 「あー、マンションの裏の駐車場です」
 「ライトがつけっぱなしだったとか、そういうことはなかったですか?」
 「い、いえ、それは大丈夫です。ただ、長い間乗らずにほったらかしてしまっただけで」
 「なるほどぉ、そうですか」
 「そうなんですよ、ははは」
 「私の車、駐車場に乗り入れてもよろしいでしょうか」
 「ああどうぞどうぞ、もちろんです」
 …JAFの車をマンションの駐車場のど真ん中に停めさせたら、他の人の出入りの邪魔になるという考えは、その時の私の頭の中には入り込む余地はなかったのであった。
 ともかく、木枯らしがますますぴいぷうと吹き抜ける中、兄ちゃんはプロらしい手つきでバッテリーを調べたのであった。その診断曰く、やっぱりバッテリーが完全に上がってしまっているとのこと。バッテリー自体がもうかなり古くなっているので、充電してもまたすぐ同じことになるでしょう、今ここでバッテリーごと交換することもできますが、どうしますか(14900円也)?
 えう。急にそんなこと言われても。「ちょ、ちょっと相談してきてもいいですか?」
 すっぱりお返事。「どうぞ!」
 JAFの兄ちゃんを吹きさらしの中に残したまま、マンション8階の自宅まで駆け上がるわたくし。もうすっかり舞い上がっている。途中すれ違ったおばさんに、「バッテリー切れかい。大変だねえ」とにこやかに言われてしまう。ええそうなんすよ、もう。その後、親と相談の上、バッテリー交換で手を打つことを決定。金をひっつかんで、マンションを8階から駆け下りるわたくし。落ち着け。
 「すいませーん、バッテリー交換でお願いしまーす」
 「わかりました!」
 すかさずてきぱきと前バッテリーの除去に取りかかる兄ちゃん。見守るわたくし。二人の間を、木枯らしがぴいぷうと吹き抜ける。
 「寒いでしょう。終わるまで車の中で待っててください」兄ちゃん気を利かせてくれる。
 「あ、はい、そうですね」
 なんというプロ精神。自らはこの寒い風の中で車と格闘しているのに、客には気配りを忘れないとは。これぞ真の接客精神だ。注視されてうっとおしかっただけかもしれんが。
 車の中からぬくぬくと作業を見守るわたくし。木枯らしにも負けず、兄ちゃんはプロらしい手つきで作業をこなしていく。風が電線を鳴らし、持ち上げられたボンネットを揺らす。外は相当寒いはずだ。なのに、嫌な顔一つせずに働く兄ちゃん。これぞサービスマンの鏡。昼間のパパは男だぜ。
 「終わりましたー。エンジンかけてみてください」
 えいっ。
 ぶるるるるる…。おお、かかった。
 相も変わらずの快活さで事後処理をしてくれる兄ちゃん。寒かっただろうに。なのに「寒い中、長いことお待たせして申し訳ありませんね」などと言う。それはこちらが言う台詞でしょう。まさにまごころサービス。こういう人になら、14900円くらい喜んで払おう。良くできたお人じゃ。
 やがて、別れを告げて再び去っていくJAFの兄ちゃん。彼はすぐ次なる戦場へと向かうのであろう。彼らは1日に何度も何度もこうしたことを繰り返しているのだろうか。それでも、常に真心を忘れない彼ら。去っていく背中が「これが俺の仕事だぜ」と語っているような気がした。

JAFのサービスマン、彼らこそ
男の中の男だ!

 些細なことで安直に感じ入ってしまう、年の瀬のことであった。

 「あー、車直ったのぉ。じゃあ早く買い物に行こう。すぐ行こう」
 「はあ…やっぱりアンタはそれだけかい…」

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